『ソクラテスからSNS「言論の自由」全史』(その1) by  ヤコブ・ムシャンガマ

ソクラテスからSNS言論の自由」全史
ヤコブ・ムシャンガマ
夏目大 訳
早川書房
2024年3月20日 初版印刷
2024年3月25日 初版発行

 

日経新聞、2024年5月4日の書評で紹介されていた本。面白そうだったので、 図書館で借りて読んでみた。
 
記事では、
言論の自由の法的・政治的意義を説く著作や、特定の国や地域での言論の自由をめぐる闘いを記述する著作は無数にあるが、人類の文明の始まりにまで遡って、自由に語ろうとする人たちとそれを規制し、エントロピーを制御しようとする勢力の間の、現代に至るまで形を変えながら続く闘いを、人類の発展史として描き出す本書の試みは画期的だ。・・・・”とある。

 

本当に、文明の始まりから言論の自由との戦いは存在していたのだ、、、と、気づかされる。571ページの単行本。なかなかのボリューム。

 

著者の ヤコブ・ムシャンガマは、シンクタンク 「ユースティティア」 CEO。 ヴァンダービルト大学研究教授。「個人の権利と表現のための財団」 シニアフェロー。 言論の自由と人権について、エコノミストワシントンポストBBC、 CNN、 フォーリンアフェアーズ、フォーリン・ポリシー、 ウォールストリートジャーナルなどのメディア・専門誌に幅広く寄稿、コメントを行っている。本書が初の著書。

 

黒に白文字の装丁。表紙をめくると、白の活字で
” 人類三千年の歴史を俯瞰し、 言論・出版・表現の自由の真の価値を照射する
 「言論の自由の歴史」 決定版!
 言論の自由を万人に保障する、 古代ギリシャの「パレーシア」のような平等主義と、「自由」が「放縦」に陥ることのないよう、 言論の自由を限られたもののみに認めようとする、古代ローマの「リベルタス」のようなエリート主義。 両者の相克は、啓蒙主義や市民革命などの歴史のうねりの中でどのような運命をたどってきたのか?
宗教イデオロギーの対立において歴史上頻繁に見られる、言論の自由を擁護してきた者が 権力を持った途端に抑圧する側に回る「ミルトンの呪い」は、なぜ昔も今も人間を呪縛し続けるのか?
虚偽情報やヘイトスピーチがインターネット空間に蔓延する現代にあってなお、 言論の自由を「第一の自由」として守るべき理由はどこにあるのか?”
とある。

 

目次
第1章 古代における言論の自由
第2章 中世は暗黒時代ではない  中世イスラムの世界とヨーロッパ世界の地の探求と異端審問
第3章 大いなる混乱 ルター、グーテンベルク宗教改革
第4章 啓蒙主義の種
第5章 啓蒙主義の時代
第6章 自由の防塁を築く
第7章 革命と反動
第8章 静かなる大陸 19世紀 ヨーロッパの言論の自由 を巡る戦い
第9章 白人たちの責任 奴隷制植民地主義、 人種間(不)平等
第10章 全体主義の誘惑
第11章 人権の時代 勝利と悲劇
第12章 言論の自由の後退
第13章 インターネットと言論の自由 の未来
おわりに
謝辞
解説/森村進
原注

 

感想。
面白い。
すごーく、歴史の勉強になる。言論の自由史とは、まさに文明の、社会の歴史そのものなのだ、、、と思った。そして、言論の自由をめぐる肯定論、否定論、どちらも延々と繰り返されている。。。奴隷制廃止、人種差別撤廃、基本的人権、、、すべては、だれかの「声」から始まっている。

 

日経新聞の記事の中では、”著者が特に注視するのは、言論の自由や民主主義を否定する勢力の言論を、ヘイトスピーチ規制等の形で規制しようとする「不寛容への不寛容」の問題だ。著者の立場は明瞭だ。”とある。

明瞭なのは、いかなる言論の自由も否定してはいけない、、、というメッセージ。

 

そして、表紙裏にもあった「ミルトンの呪い」というのは、歴史上何度も繰り返されている。言論の自由をもとめて立ち上がり、革命を起こしたもの達でさえ、自分たちがトップに立つと自分たちと相いれない相手の言論を弾圧しようとする、、、。

 

なるほど、なるほど、
ふむふむ。
本当にそうだ。。。。

 

小さい組織であっても、変革をもとめて立ち上がった人たちが、後に権力を振りかざして反対勢力を弾圧しようとする、、、、。これって、、、人間の性なのか?!とおもうほど、、、歴史は、大きくも小さくも繰り返す、、、と思った。

 

ギリシャ、ローマの話から始まり、中世、啓蒙時代、、、世界史の勉強をしているような感じ。近代になってくると中身が少し身近に感じ始める。そして、天安門事件や今のプーチン体制の話になると、なんと、数世紀前からなにもかわっていない、あるいは、言論の自由は悪化してるかも、、、とも思ってしまう。胸が痛い。

そして、まさに、昨日、6月4日は、天安門事件から35年。。。強化される検閲。。。

 

言論、主には宗教に関わる言論の弾圧は、ルターやカルヴァンの思想があったということだけでなく、そこに、「グーテンベルグ革命」つまりは、印刷による大量出版、普及が可能になったということがあった。そして、フランスにおける「ナントの勅令」のように、一度は認められた宗教の自由が、再び否定されて不寛容になると、また別の言論が発生、弾圧が発生、、、。そして、それを逃れようと人々の移動。

印刷物の普及による社会変化、その流れは、現代ならば、インターネットの普及による思想の拡散、そして、弾圧、、、、。

 

イーロン・マスクツイッターを買収し、言論の自由を!と言ったとき、私は、正しいような、、、、気がちょっとした。でも、なんでもかんでも野放しでいいのか??いや、、でも、やはり、自由でいいように思った。ヘイトスピーチを取り締まるって、だれが取り締まるんだ?!って、ちょっとディストピア的なことも感じた。だから、たとえ、トランプの発言だって、どれだけ偽情報だとしたって、、、それを第三者のだれかが検閲して管理するって、、、ちょっと、怖い世界じゃないか?!と思うのだ。その情報をどう受け止めるか、その判断材料を正しく提供することのほうが重要ではないのか?まぁ、そんなことが簡単にできるのならば、苦労しないのだけれど、、、。

しかし、どこかで規制されれば、違うどこかで発言するだけだろうし、思想そのものが変わるわけではない。そう「考えること」は誰にも止められない

 

本書で目からウロコだったことがたくさんある。

 

禁書令を無視したトマス・アクィナスですら、キリスト教アリストテレス哲学の統合という偉業を達成しながらも、万人に自由な思想をもたらしたのではなく、「悔い改めない異端者には、憎しみの負債を返済すべし」といった。慈愛の人だと思っていたのに、、、。衝撃的。

megureca.hatenablog.com

 

エカチェリーナは、ロシアではじめて言論の自由を語った人物でありながら、後に、ロシア史上はじめて公式に組織的検閲制度を作った人となった。

 

フランス革命は、自由・平等といいながら、その人権宣言に「女性の権利」は含まれておらず、男性と平等ではなかった。かつ、革命から4年で反革命容疑者法」という悪名高き法律をつくり、恐怖政治を行った。反対勢力のジロンド派の代議士たちをギロチンで処刑した。。。口封じ。

 

人への弾圧だけでなく、出版物に印刷税を課すことで、一部のエリート、お金持ちしか本を買えないようにした政府もある。 

 

などなど、、、すごい情報量。これは、読み応えのある一冊だった。

定価、4900円(税抜き)という価格も、納得。たとえ、著者の意見に合意できないとしても、これまでの歴史を知ることができる。4900円の価値があると思う。ま、私は図書館で借りてしまったけれど・・・。

 

もう少し覚書を残したいけれど、長くなりそうなので、続きはまた、、、。