『宇宙の地政学』  by 倉澤治雄

宇宙の地政学
倉澤治雄
ちくま新書
2024年5月10日 第1刷発行

 

 2024年7月6日の日経新聞書評で紹介されていた本。図書館で借りて読んでみた。記事では、

”日米欧や中国、ロシア、インドが宇宙開発競争を激化させている。歴史的な経緯や各国の技術力、安全保障政策上の位置づけなどをコンパクトにまとめた。特筆すべきは、実態が見えにくい中国の技術力や戦略を詳述している点だ。中国は月の裏側の土壌サンプルを初めて持ち帰ったばかり。そこまでの実力を付けるに至った背景を理解する一助にもなる。日本のとるべき戦略についても、突っ込んだ分析を読みたい。(ちくま新書・1012円)”とあった。

 

著者の倉澤さんは、1952年、千葉県生まれ。 東京大学教養学部基礎科学科卒業。フランス国立ボルドー大学第3課程博士号取得 (物理化学専攻)。1980年、日本テレビ入社。 現在は科学ジャーナリスト、日本記者クラブ会員、 日本科学技術ジャーナリスト会議会員。

 

表紙には、
” 米中の競争は宇宙のあらゆる分野に及ぶ。 国際宇宙ステーションISSと 中国の「天空」、測位航行衛星GPS「北斗」、 衛星通信コンステレーションスターリンク「国網」など、先行する米国を中国が猛追する構図となっている。「量子衛星通信」ではむしろ 中国が戦闘を走っている。・・・・・”と。

 

表紙をめくると、
” 21世紀に入って中国が独力で有人宇宙飛行に成功、著しい躍進を遂げ、米国の宇宙覇権を脅かすほどになった。同時に米国では ニュースペースと呼ばれる民間宇宙ベンチャー企業等の開発が本格化し、宇宙の地政学は 米ソから米中へ、国策から民間へ、国威発揚 からビジネスへ、そして平和利用から軍民一体へと大きくシフトした。月探査から月基地建設、さらに将来的には、火星移住も計画されている。世界中で活気づく宇宙開発の最前線を全部レポートする。”とある。

 

目次
プロローグ 宇宙を制するものが「未来」を手にする
第一章 月をめぐる熾烈な争奪戦
第二章 米中が火花を散らす宇宙の激戦区
第三章 国家の威信をかけた中国の宇宙開発
第四章 躍動する米国の宇宙ベンチャー 「ニュースペース」
第五章 日本の宇宙開発と宇宙安全保障
エピローグ  日本が「未来」を手にするために

 

感想。
う~~ん、地政学というより、取材レポートって感じ。確かに、アメリカ、中国、ソ連(ロシア)、ほかの宇宙開発技術情報が満載。でも、そこから地政学的な話へは余り展開していないような、、、気がする。私が読み取れないだけかもしれないけど。わりと、技術的単語、数値情報が続いて、調査報告書を読んでいる感じ。ただ、米ソの技術開発の歴史も含まれるので、現在の技術比較だけではないところが、読み物として面白い。

とにかく、今は中国の宇宙開発が進んでいる。ただ、中国の宇宙開発に関して言えば、青木節子『中国が宇宙を支配する日 宇宙安保の現代史』(新潮社)の方が、中国に焦点をあてていて、わかりやすいかもしれない。

megureca.hatenablog.com

 

GPSは、既に私たちの日常生活に無くてはならないものになっている。そのうち、GPSではなく、「北斗」とリンクできる携帯電話が日本でも売られる日はくるのだろうか??

スターリンクは、イーロン・マスクのスペースXが運用している衛星インターネットアクセスサービスで、2024年1月の能登半島地震のときに、アンテナが提供されたことがニュースになっていた。もう数年すると、携帯の通信プロバイダーとの契約なんてなくなって、直接スターリンクを使う時代が来るかもしれない。同様なサービスを、中国も「国網」で提供している。

 

マイケル・グリーンの『アメリカのアジア戦略史』を読んでいる最中なので、アメリカとソ連との技術競争の歴史もナマナマしい。

megureca.hatenablog.com

 

1945年のアメリカの原子爆弾投下。それを追うように、

1949年8月29日、ソ連の原爆事件。

1957年、ソ連人工衛星スプートニク1号」の衝撃。

1961年、ユーリ・ガガーリン初有人宇宙飛行。

1969年7月21日、アポロ11号、 アームストロング船長 月面着陸。。。。

 

そして、昨今のロシアのウクライナ侵攻による、宇宙ステーションからの撤退問題。。。

いまや、民間人でもお金を払えば宇宙飛行ができる時代。宇宙のロマンが縮小されちゃう気がして、ちょっと、悲しい。。。私は、NASAで働きたかった。自分が宇宙にいけるとはおもっていなかったけれど、宇宙開発、やってみたかったなぁ、、、と今でも思う。そして、いつか、青い地球を、丸い地球を、自分の目でみてみたかったなぁ。。。。しかし、お金を出せばいけると言われると、夢が夢じゃなくなっちゃう・・・。

 

気になったことを覚書。

 

ポイント・ネモ:宇宙船の墓場。世界の大洋で最も陸地から離れた地点で、到達不能極の一つ。お役御免になった衛星などが、そこに沈むらしい。

 

・”米国の宇宙政策は、大統領が変わるたびに変更と修正を余儀なくされる。”これは、、アメリカの強みか?弱みか?ジョー・バイデンは、宇宙開発について言及することが少ない。さて、トランプになったら?ハリスさんになったら?

 

・月面探査、米国の無人月周回衛星「ルナー・リコネサンス・オービター」(LRO)。2009年に打ち上げられ、現在も、月面観測を続けている。月面に到着し、そのまま残されているアポロ号や、月面に衝突したルナ25号(ロシア)の残骸なども映している。画像は、NASAのWebサイトで見ることができる。

 

・2019年までに 世界各国で打ち上げられた 火星探査機は46機。 ミッションを達成したのは、わずか20回。成功率は40%。 1998年7月に打ち上げられた日本の火星探査機「のぞみ」も通信が途絶し、 火星周回軌道への投入を断念。難易度が高い理由は、 地球が太陽の周りを回る 公転周期が365日であるのに対し、 火星の公転周期は687日。 地球と火星が近づくのはほぼ2年に1回に限られている。 火星周回軌道に探査機を投入するには極めて正確な 軌道制御技術を必要とし、ゴルフに例えると、 パリのティーグラウンドから東京のグリーン上のホールに沈めるようなもの。

 

・ 世界で初めて 液体燃料ロケットを打ち上げたのは、アメリカの科学者ロバート・ゴダード(1882~1945)。 1926年 長さ 数十センチのロケットを打ち上げた。 ガソリンを燃料 液体酸素を酸化剤に使ったロケットで2.5秒間で12.5m の高さに到達した。ゴダードは、 ロケットは真空中でも 飛行できると主張したが、『ニューヨークタイムズ』紙は、「物質が存在しない 宇宙空間でロケットが飛行できるはずがなく ゴダード 博士は高校で教わることすら知らないと」とマッドサイエンティスト扱いした。のちに、NASAは、ゴダードの取得した200件超の特許をすべて買い取った。

 

・宇宙開発を先導した人々。
 中国人: 銭学森(ぜんがくしん):1911~2009、義和団事件の賠償金で苦しむ清朝政府は、賠償金を中国留学生の米国 留学費用にあてることで合意。銭学森は、米国にわたり、マンハッタン計画にも参加。
 ロシア人: セルゲイ・コロリョフ: 1907~1966
 アメリカ:ウェルナー・フォン・ブラウン:1912~1977、ナチスドイツの科学者でアメリカに亡命し、アメリカで宇宙開発。

 

・ 宇宙資源探査:小惑星からの金属獲得の方が、地球で掘削するより安いかもしれない。 人類が掘削した地殻の最深部は、旧ソ連コラ半島で実施した深度12キロでマントルにも届かない。

 

カルマン・ラインハンガリー出身の 米国の航空工学者 セオドア・フォン・カルマンが十分な大気が存在するコードをおよそ100キロと 算出したことから、 一般には海面から高度100キロの「カルマン・ライン」を宇宙空間の始まりとしている。

 

・ 「インターステラテクノロジズ」:堀江貴文が取締役・ ファウンダーの宇宙総合インフラ会社。2013年から本格的に ロケット開発で乗り出し、苦心の末、2019年5月4日に「MOMO3号」で 初めて コード 100キロのカルマン・ラインを超えた。

 

私としては、日本の宇宙開発を応援したい。SLIMは、障害を乗り越えて、月面へのピンポイント着陸を成功させ、月の画像を送信してきた。極寒の夜も生きのびた。
先日は、大型基幹ロケット「H3」の3号機を打ち上げに成功。地球観測衛星「だいち4号」を目標の軌道に投入し、実用化への道を繋げた。

 

やっぱり、宇宙の仕事は壮大であこがれてしまう。私が、宇宙開発への道を選ばなかったのは、壮大すぎて結果を見るまでに時間がかかりすぎるから、、、 というのも一つあったかもしれない。せっかちな私には、時間単位で増殖していく微生物の研究の方が向いていた。でも、いま、50歳を過ぎると、ゆるやかな時間の流れの中で一生研究にたずさわれたらそれはそれで幸せだろうなぁ、、と思ってしまう。 

 

JAXAで、受付のおばちゃんくらいで雇ってくれないかしら・・・。

なんてね。