「読む力」 by 松岡正剛  佐藤優

読む力 現代の羅針盤となる150冊
松岡正剛 佐藤優
中公新書ラクレ
2018年4月10日発行
 
松岡さんと佐藤さんの本だから借りてみた。

二人の対談のような形になっている。
 
第1章 子どもの頃に読んだのは
第2章 論壇からエロスも官能も消えた
第3章 ナショナリズムアナーキズム神道、仏教、
 日本を見渡す48冊
第4章 民族と国家と資本主義
 海外を見渡す52冊
第5章ラッセル、養老孟司弘兼憲史
 「通俗本」50冊
 
二人のリズムの良い対話は、ポンポン進む。次から次へと様々な話が飛び出し、本が飛び出てくる。章のまとめのように、日本を見渡す48冊、海外を見渡す52冊、「通俗本」50冊のリストが付いているのだが、それ以外にも、会話の中にでてくる本も興味深い。
二人とも、子供のころから読書に慣れ親しんでいる。佐藤さんの場合は、神学が軸になっている感じで、どのような話にも佐藤さん流の考え方が添えられていてる。松岡さんの場合は、あらゆる情報を編集する、が軸になっていて、松岡さんの頭の中の編集結果(解析結果?)が述べられている感じ。
 
佐藤さんの本が好きで、佐藤さんのお薦めと言われて手にした本がこれまでにもたくさんあるので、150冊の中には、読んだことのあるものももちろんあった。でも、こりゃ、難しそうで無理だわ、っていう本もたくさん。特に、戦前の本は、日本の本も翻訳本も、難解なものが多い気がする。
読んだことはあるけれど、もう一度読み直したいなぁ、と思えるものもたくさんでてきた。
 
気にある本を覚書。
・「胎児の世界」三木成夫
最近読んだ、吉本隆明さんの本の中でも出てきて、吉本さんが人間は胎児7~8ヵ月の時から人間だということに感心した、と言っていた。そして、「孤島」を紹介されていた方の最近の発信にも、「胎児の世界」は中公新書屈指の名著、と言って紹介されていた。
ちなみに、前回、記載しなかったが「孤島」を紹介されていた方というのは、作家であり、大学教授でもある田中真知さんのこと。

megureca.hatenablog.com 
・「死者の書」 折口信夫
これまた、吉本隆明さんの本にもでてきたし、これまた、田中真知さんの最近の発信に、「折口信夫の『死者の書』を発作的に読み返していたら、なんと折口の命日だった・・・」、という話が。
 
・「ドーダの近代史」鹿島茂
「幕末の尊皇攘夷から征韓論を経て、西南の役に至った、説明しにくい事態の原因を今までにない視点から追求するというかなり面白い通俗本です」と松岡さんが紹介されていた。幕末の話を面白い視点で、というのが気になる。
鹿島さんは、「この一冊、ここまで読むか!」を読んだ時に、面白い人だな、とおもった人なので、彼の書籍、読んでみたい。

megureca.hatenablog.com


 
・「こころ」夏目漱石
何度となく若いころに読んだことがあるが、最近、夏目漱石のちょっと異常な人格性とか、「こころ」の主人公が本当に悩んだ理由とか、半藤一利さんの本や、吉本隆明さんの本で色々と書かれていて、もう一度、読み直してみたいなぁ、と思った。

 

  
・「沈黙の春レイチェル・カーソン
2年くらい前から読もうとおもって買っておきながら、ずっと積読になっている一冊。

なんとなく、最初の数ページを読んだだけで、心が痛むのだ。約50年も前から、これだけ環境のことを訴えていた人がいたのに、、、、昨今の異常気象。。。人災だな、と思うと、心が痛む。やはり、今回も「通俗本」のなかで紹介されていたので、ホコリをはらって、読んでみよう。
 
・「モモ」ミヒャエル・エンデ
小学生の時に近所の幼なじみの同級生から借りて読んで、衝撃を受けた本。多分、私の人生の時間に対する感度は、この本との出会いに起因するのではないかと思うくらい、圧倒的なパワーで迫ってきたお話。また、読みたくなった。買っちゃおうかな。
 
・「ロウソクの科学」マイケル・ファラデー
これまた、お薦め本として良く紹介される本だが、いまだに読んだことがない。「通俗本」の中で紹介されているのだが、ファラデーが優しく解説してくれていると。科学好きとしては、やっぱり気になる。
 
とまぁ、他にもたくさんあるのだけれど、読書も優先順位をつけて読まないと、、、、と思う今日この頃。
 
今回、佐藤さんの発言のなかで、ハッとされる表現があった。
P.118
「超絶主義(トランセンデンタリズム)とは、エマソンを中心として始まるアメリカのロマン主義運動とされていますが、アメリカには、欧州のような、社会の秩序と論理に反逆する自我を尊重し、感性の解放と表現を重んじるようなロマン主義が希薄です。というのもヨーロッパでは、フランス革命後の荒廃、挫折を契機としてロマン主義が花開くのですが、同時期のアメリカはフロンティア開拓を「順調」に進めていて、挫折がない。ネイティブアメリカンを殺戮して征服してしまった。アメリカのロマン主義は、皮肉にも先住民を征服することによって完成した。それが、いまでもトランプのような変な大統領が出てくる素地になっている気がします。」
 
荒廃と挫折を経験していない。征服することで完成されたロマン主義。勝者の理論。
 
なるほどなぁ、とうなずいた。
佐藤さんの発言は、こういった佐藤さん解釈の説明があって、好きだ。すべてに同感するという事ではないけれど、だからこう考える、という道筋があって、軸がぶれない。
 
正剛さんの軸のブレなさは豊富な情報に基づいていて、佐藤さんの軸のブレなさは考え方の理論構築にあるというのか、いずれにしても、お二人とも、どういう脳みそもっていらっしゃるんだか。

 

「通俗本」の話の流れで、翻訳本についての対話があった。佐藤さんは、「絶対的に必要なもの」という。そして、翻訳には必ず解釈が入ってきて、その解釈は人によって違うから、望ましくは複数の翻訳があるといい、と。翻訳本と原本を見比べて読むと、現本には書かれていない言葉が出てくることがある。原本で読めればいいけど、そこまでの語学力もないので、やはり翻訳本に頼る。せめて、英語の本くらいは原本で読めるようになってみたいものだ。

 

翻訳の流れで、米原万里さんのお名前が出てきた。お二人とも、米原さんをほめてらっしゃる。米原さんは、作家としての活躍しか私にはわからないけれど、同時通訳にまつわるエッセイも本当に面白い。そして、彼女はある通訳の案件を引き受ければ、その業界に関連する専門書を何十冊も読み込み、2週間あればその専門家になっていた、と。

私も、そんな通訳者になってみたい。 

 
読書というのは、共感を育てる手段の一つだという話があったが、考え方を学ぶ手段でもあるな、という気がする。

238ページ。

普通サイズ、普通の厚さの新書。

でも、濃い中身だった。


 
読書は楽しい。