『知の教室』 by 佐藤優

知の教室
教養は最強の武器である

佐藤優
文春文庫
2015年8月10日 第一刷

 

図書館で見かけたので借りてみた。479ページの分厚い文庫本。

装丁が面白い。佐藤さんの目力!!


サブタイトルにあるように、”教養は最強の武器である”ということで 、佐藤さん曰く、「本書はがっついたビジネスパーソンや学生を念頭においた実践書」だとのこと。
2015年の本であり、かつ、それ以前のレポートを引用しているところもあるので、政治関係の話は最新、というわけにはいかないけれど、歴史的に振り替えることが出来る。

様々な専門家たちとの対談、鼎談なども掲載されていて、佐藤さんの視点だけでなく、色々な話題が語られている。
なかなか、読み応えのある一冊。

意図したわけではないのだけれど、このところ佐藤さんの2015年頃の著書をいくつか読んでいるので、かなり、重なる話もある。一回で腹落ちしなかった話も、なんどか読んでいると、あぁ、なるほど、、、、とつながりが見えてきたりするから面白い。

2015年、きっと精力的にがんがん書いていたのだろう。

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うん、『知の教室』だ。なかなか、面白い一冊。
お薦めの本のリストなどもあるので、一冊、手元に置いておいてもよいかも、とも思った。でも、2015年の本なので、蔵書を増やすのは、やっぱり、もっと新しい物を読んでからにしよう。。 。。かな。

 

佐藤さん曰く、教養は、すぐに役立つ事柄を学ぶのではなく、何の役にも立たないようにみる教養こそが、中長期的視点で役に立つ、と。佐藤さんにとっては、神学研究が中長期視点で大いに役に立った教養、ということだ。
大学の専門を専攻するとき、神学を選ぶって、やっぱり、すごい勇気の気がする。いくら、母親がプロテスタントだったからと言え、、、当時、佐藤さんはまだ洗礼も受けていないし、どちらかというと無神論を研究してみたくて神学部にすすんだ、とどこかで読んだ気がする。

まぁ、私にとっての読書は、別にこれから先の専門性を高めよう、というわけではないので、役に立つ日が来るのかはわからないけれど、楽しく読書で学べているということだけでも、儲けもん?かな。

 

目次
第一講座 佐藤優の知的技術のヒント
第二講座 情報を拾う、情報を使う        (池上彰、西木正明)
第三講座 知をビジネスに取り込む        (山内昌之
第四講座 知の幹を作る最低限の読書    (斎藤美奈子米光一成
第五講座 武器としての教養を蓄える    
第六講座 佐藤優式・闘い方を学ぶ        (堀江貴文鹿島茂藤原正彦、水木楊)
第七講座 対話のテクニックを磨く        (玄侑宗久伊藤潤二塩野七生池内恵
第八講座 分析力を鍛える 国際情報篇    (中西輝政、春名幹男、宮家邦彦、山内昌之、                     井上寿一、川村雄介、田久保忠衛
第九講座 分析力ケーススタディ ロシア読解篇
第十講座 佐藤優の実践ライブゼミ

佐藤優「知の年表」
あとがき
登場者紹介
初出一覧


と、モリモリの内容。
でてきた対話の相手も、知らない人も多数。。。

あまりに多岐にわたるので、佐藤さんからのライフハックを覚書。

 

佐藤さんは、朝5時に起きて、その瞬間から仕事を始める。
脳の活動が活発な午前中に執筆活動

 

記憶を定着させるには、関連させて覚えること。テーマがいくつかあれば、指を折りながら、一つ、二つ、、、と覚えていく。

 

集中力を切らさないためには、脳のエネルギーが必要。それにはぶどう糖が一番。集中して仕事をするときに、低血糖症対策のゼリー状のものを摂るそうだ。
さすが、、、ストイック、、、。

 

人生で読める本はそう多くないので、読まなくてもいい本をはじき出すこと。熟読すべき本は、鉛筆、消しゴム、ノートの三種の神器を使って、とことん読む。一回目は線を引きながら。二回目は特に大事なところを線で囲む。三回目は結論部分を三回読んだうえで全体の通読。これは、よほど大事な本とのこと。

 

ノートは、一冊にまとめる。記録、仕事、学習、すべては一冊のノートに。佐藤さん愛用は、コクヨの分厚いキャンバスノート、と。

 

情報を拾うためには新聞を読むこと朝日新聞は手堅い取材をするので事実関係は間違いない。いくつも読めないならば、朝日新聞を、と。

 

知を実生活につかった実践例が、拘置所での聖書。具体的に10の聖書の言葉がリストされている。これは、、、、拘置所に行かないで済むことが一番か?!?!
でも、理屈を超えた救済、人は自分を変えられる、など、、、聖書になじみが無くても、聞いたことがあるような言葉が並ぶ。
今の私に響いたのは、
「狭い門から入りなさい」(『マタイによる福音書』7章13節)
人生では、何度も決断に直面する。そのとき、「狭い門」すなわち、より困難な道を選択しろ、ということ。

 

会議同時通訳なんて、ほんとに私にできるのだろうか??と、、しょげる日々もあるのだが、狭き門に挑戦しているのだ、とおもって、、、頑張ってみよう、、と思った。
無駄な努力とならないように、、、頑張ろう。

 

第四講座では、登場するメンバーのお薦め本が10冊ずつ紹介されている。気になる、気になる、気になる。。。ちょっとだけ、覚書。

 

佐藤さんの、近代を知るためのお薦め10冊。

『論理的に考え、書く力』 芳沢光雄 光文社新書
『ネコの動物学』 大石孝雄 東京大学出版会
『認識の対象』 リッケルト (山内得立 訳)岩波文庫 
『論理学』 野谷茂樹 東京大学出版会
『翻訳の政治学 近代東アジア世界の形成と日琉関係の変容』 與那覇潤 岩波新書
モナドジー形而上学叙説』 ライプニッツ清水富雄他 訳)中公クラシックス
太平記』(全4巻) 長谷川瑞校 小学館
『民族とナショナリズム』アーネスト・ゲルナー 加藤節監訳 岩波書店
『経済原論』宇野弘蔵 岩波書店
『ネットで「つながる」ことの耐えられない軽さ』 藤原智美 文藝春秋

 

米光さんの、世界を楽しむための10冊から
『「こころ」で読みなおす漱石文学 大人になれなかった先生』 石原千秋 朝日文庫
『翻訳教室』 柴田元幸 朝日文庫

 

ちなみに、この章で、村上春樹『1Q84』が宗教を知るための本として紹介されている。キリスト教を示唆するシーンがたくさんある、、、と。そうだっけ??まぁ、不思議ちゃんのほんだったけど、当時の私は気が付かなかった。

 

第五講座で、佐藤さんの「教養」の定義。
教養とは学術的な『知』を生活と結びつけて活用する能力。
活用しなければ、教養とはいえないということ。ただの物知りと、教養があるというのは違う。でもって、 新自由主義は、教養とは無縁、だと。MBAは、運転免許でしかなく、ビジネススクールに行ったからと言って教養が身につくわけではない、と。新自由主義は、「規制緩和さえすれば、競争の原理だけですべてうまくいく」という発想なので、創造的知性が必要とされない、、と。あ、、、ちょっと、、、わかる気がする。

 

第七講座での、玄侑宗久との対談は、おもしろい。佐藤さんのお父さんが玄侑さんのお寺のある福島県三春であったという話は、二人で奇遇だと面白がっているのが面白い。
玄侑宗久さんの『福島に生きる』についてかたられているのだが、震災のあとの福島と、沖縄についてのダイアローグ。日本における、原発と基地のありようが、似ているという話。日本のために地域が背負っているモノ、そしてそれを普段はだれも意識していない、ということ。。。加えて、お二人の話は、国民の意識の話から、国会議員の話に至る。
佐藤さん曰く、「今の国会議員の何がいちばん問題かというと、偏差値が上がっちゃったこと。学校秀才ばかり」と。同質の人間ばかりの議論では、全体の代表にならない、と。。。2022年の今もかわっていないか?!?!

 

二人の世界への視線は、永世中立国の話へ。玄侑さんは、日本が永世中立国になればいい、とおっしゃる。佐藤さんは、難しいだろう、という。。。
そして、第二次世界大戦時に中立国だったベルギーにドイツが侵攻してきた話題に。中立国だからと言って、侵攻されない保証はないのだと。
中国なら、「約束はしたけど、約束を守るとは言っていない」とか言いかねないから、永世中立国になるのは無理だ、というのが佐藤さんの説。

 

塩野七生さんと池内さんとの鼎談も面白い。塩野さんと言えば、ローマ人の物語。私は、学生時代に途中まで読んで、あとは老後にとっておこう、、と、続きを買うのを辞めてしまった。。。
塩野さんのローマの歴史に対する視線は、ヨーロッパの人のそれとは異なるので、やっぱり面白そうだ。脱サラした今、老後みたいなもの??だから、読んでみようかな。。。と思った。
塩野さんは、執筆する際に、「現代を生きている人の役に立つとか、今の日本人にとって何かの解決策を示唆するような意図をもって書かない」としたそうだ。だから歴史が色眼鏡なしに語られているということ。うむ。やっぱり、読むべし、かな。

 

第八講座では、インテリジェンスの意味について。
インテリジェンスは、分析ではない。分析は、アナリシス。
「この黒猫は黒い」は、分析。主語に黒いという意味が既に含まれている。
「この黒猫は賢い」となると、シンセシス。統合、ということ。それが、インテリジェンス。
日本語で分析というと、この分析と統合の両方が含まれるので、頭の中で整理して議論することが大事、だと。
中国の動向については、分析と統合が大事だと。
で、中国は、法律用語でいうところの「発生事実」と「決定事実」のうち、「決定事実」を使う、と。だから、南沙諸島にコンクリートの建造物をつくってしまう。決定事項で歴史を語るのが中国。。。。
日本人と歴史を語ったときに、違和感がないわけがない。自国の歴史はつくって、決定事実にする、それが中国。。。地図だって作っちゃう国だから。。。

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本書最後は、2015年3月4日に行われた公開ゼミナールの質疑応答も含まれる。

最後の質問は、

「佐藤先生にとって、生きるとことはどういうことですか?」

佐藤さんの答えは、

「こうやって、皆さんと会ってコミュニケーションをとっていくということで、それは楽しいことです。自分の持っている知識なり何なりを人と分かち合うことができることは楽しいことです。」

と。

 

最近、慢性腎臓病を抱えていること、移植手術を考えたら癌が見つかったことを公表されているけれど、もっともっと、たくさん、書いてほしいなあ、、、と思う。

 

読書は、楽しい。

書籍も、コミュニケーションだ。

 

『知の教室』