『リズムの生物学』 by  柳澤 桂子

リズムの生物学
柳澤 桂子
講談社学術文庫
 2022年3月8日 第1刷発行
*本書は、1994年10月に中公新書より刊行された『いのちとリズム 無限の繰り返しの中で』を改題したものです。

 

益田ミリさんの『痛い靴のはき方』で、柳澤さんの話が出てきた。

megureca.hatenablog.com

 

 引用されていたのは、『二重らせんの私』(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)からの一節で、読んでみたいと思ったのだけれど、図書館になかったので、放置していた。そして、先日図書館の新着本の棚に、本書をみつけたのだ。違う本だけれど、生物学者の柳澤さんの本だし、タイトルもおもしろそう!と思って、借りてみた。

 

本書の裏の説明には、
”地球上のあらゆる生物は、 生まれ落ちた瞬間から、太陽の周期や月の満ち欠けなど、天体の動きに同調しながら35億年以上もの間、体内でリズムを奏でてきた。眠り、痛みと快楽の刺激、脳波、心臓・・・。小さな細胞が分裂を繰り返す構造(メカニズム)とは?”繰り返し”が脳に与える効用とは? 原子の世界から宇宙現象まで、雄大な視点で「リズムの謎」を探る意欲作!”
とある。

 

著者の柳沢さんは、1938年東京都生まれ。お茶の水女子大学卒業。コロンビア大学大学院修了 。Ph. D.( 遺伝学専攻)。お茶の水女子大学名誉博士生命科学者。サイエンス・ライター。 

 

感想。
久しぶりに、自分の専門に近いサイエンスで、気持ちよく読んだ。生物、遺伝子、生理作用。あぁぁ、、、学術的にこういうことを研究し続ける人生も、ありだったなぁ、、、とおもいつつも、サイエンスとは程遠い最近の生活に、ちょっと 物足りなさを覚えてしまった。もう、生化学探求の人生は終わりでいいや、とおもっていたけれど、やっぱり好きだ。私には、彼女の文章が音楽のように響いてくる。マニアック過ぎるかもしれないけど・・・。
 読みながら、ここ数年使っていなかった脳みその一部が、活性化するのを感じた。あぁ、、、脳内に染みついているバイオテクノロジーの思考が私の中にある、、、と思った。さら~~~っと読みで、日常生活とは異なる世界を旅した感じ。
面白かった。


目次
1 天体の動きと生物
2 サーカディアンリズムの進化
3 サーカディアンリズム分子生物学
4 眠りのリズム
5 刺激の伝達のリズム
6 脳波のリズム
7 心臓の拍動
8 非線形振動
9 線虫の運動のリズム
10 受精波
11 細胞分裂のリズム
12 細胞という繰り返し構造
13 細胞性粘菌の集合のリズム
14 ベローソフ・ジャポチンスキー反応
15 体節という繰り返し構造
16 進化のリズム
17  DNA の繰り返し構造
18 遺伝子の繰り返し構造
19 非平衡系と生命現象
20 繰り返しと心の安らぎ
21 文化とリズム 

 

 どの話も、リズムに関する事。天体としての地球のリズム。哺乳類、遺伝子や虫にいたるまで、命あるもののリズム。物理学のリズム。文化のリズム。。。サーカディアンリズムは、生物が宇宙から生まれたことを思い起こさせる。

 

 私が社会人になって最初の研究所で、女性の先輩で、細胞性粘菌を扱っている方がいらした。粘菌ワールドのマニアックさったら。。。まさか、あれから30年もたって、再び粘菌の話にワクワクしている自分がいるとは・・・。粘菌は、一匹ずつばらばらになってアメーバ状態になったり、みんなで集合して子実体を作ったり、それが肉眼で観察できるのだ。
 通常の微生物は、試験管やフラスコ、シャーレなどで培養するのだけれど、粘菌はどんどん広がっていくので、バケツの中で培養していた。。。懐かしすぎる。。。きっと、普通の人が見たら、ちょっとぎょっとする代物だとおもう・・・。
 その粘菌の話では、そのリズムを作り出すために、サイクリックAMPの分泌がカギになるという話。サイクリックAMPは、cAMPとも表されるのだが、AMP(アデノシン一リン酸)のリン酸基が環状になっている。細胞のさまざまな生理的応答を媒介する細胞内情報伝達物質として働く。
 私自身が、研究の中でcAMPを含めた核酸関連物質について調べていたので、とても身近で懐かしい・・・。

 と、粘菌を懐かしく思い出していたら、今朝、2023年1月15日 日経新聞の朝刊の42面(サイエンス)”生物に学ぶ”の記事で、粘菌の写真が!!そうそう、これこれ、こうやって平面の中を広がって育っていくのよ。なんというタイミング。粘菌が新聞に掲載されることなんて、そうそうないと思うけど、、、。記事では、「粘菌がネットワークを作る様子」が写真になっていた。

 そう、ネットワークのように管を伸ばして形を変える粘菌のリズムは、cAMPで刺激をうけているのだ。

 

ほかにも、懐かしい言葉がたくさん出てきた。ロドプシン、mRNA、転写、カルシウムポンプ、二価カチオン、キナーゼ、プロモーター、SD配列。。。。。毎日のようにキーワード検索し、論文を読み漁っていたあのころは、今より英語を読む速度も速かったと思う・・・。やっぱり、興味のある分野の英文なら、どんどん読めるんだよなぁ・・・。


 むかし、1/fゆらぎ、って言葉が流行ったことがある。そう、人は、くり返しのリズムに安心したりする。柳沢さん自身の経験談で、腹部の激痛で救急車で病院に運ばれていく中、あまりの痛さにたえきれす、「ダルマさんが転んだ ダルマさんが転んだ 」と口の中でつぶやき続けたという。すると、よくわからないけれど痛みが和らぐ気がした、、、と。
「ダルマさんが転んだ」という言葉に痛みを和らげる効果があるのではなく、どんな言葉でもそれが口調よく繰り返せるものであれば、くり返しとなえていると体に何らかの効果がることがわかってきた、、と。

なるほど。
なむあみだぶつ、なみあみだぶつ、、、も、繰り返すことに意味があるのかも?!?!

緊張したときに、「大丈夫、大丈夫、大丈夫」と口の中で繰り返すのも、やっぱり何か安心効果があるのかもしれない。呪文なんて、実は、言葉そのものは、なんでもいいのかも。。。。「ちちんぷいぷいのぷい」だって、わけわからないけど、、、、効きそうな気もする。。。

 

本当に様々なリズムについて語られているのだが、そう考えるとあらゆるものは何らかのリズムを持っているという気がしてくる。そして、リズムがいいことは美しいことでもある。自然も、街並みも、人生も、歴史も、、、、。

「リズム」で語ると、色々な見方ができるのだ。

 

たしかに、生物学の本だけど、専門用語も多いけど、知らない言葉があっても、きっとリズムよく読める気がする。本そのものがリズムだった。

柳澤さん、すごいなぁ。。。。

でも、名誉教授じゃなくて、名誉博士なんだね。

時代かなぁ。。。。なんて思う。

 

マニアックに楽しい本だった。

とくに科学者でなくても、楽しく読めるんじゃないかと思う、、けど、専門家にはさらに楽しい一冊だった。