『幸せのメカニズム』 by 前野隆司

幸せのメカニズム
前野隆司
講談社現代新書
2013年12月20日 第1刷発行

 

何かで見かけて、面白そうと思って図書館で予約していたのだが、何だったのか忘れてしまった、、、。最近そういうことが多い。、、、。読みたい本リストの管理方法を考えなくちゃ、、、、。

で、図書館で借りてパラパラとめくってみて、面白くなさそうならばやめようと思ったんだけれど、意外と面白そうだったので読んでみた。

 

裏表紙の説明には、
”人々は、皆、幸福になりたいはずだ。もちろん、私も。だったら、ロボットの幸せを通して、人の幸せを理解するなどと言うまどろっこしいことを言っていないで、ダイレクトにどうすれば人が幸せになれるのか、そのメカニズムの研究をすべきではないか。だから、幸福の研究をしようと思うようになりました。哲学や心理学の研究とは違って、工学者らしく、直接的に人の役に立つことを中心に据えた幸福学を目指すことにしました。 序章「役に立つ幸福学」より” とある。

 

著者の前野さんは、もともとロボットや脳科学の研究者。多分そこが面白いところ。ロボットの幸福よりも、まずは人間の幸福のメカニズムを明らかにしなければと思うにいたって、幸福学の研究をするようになったそうだ。

エンジニアであれば、きっと誰もが一度は思う。果たして科学は人を幸せにしたのだろうか?果たしてテクノロジーは人を幸せにすることができるのだろうか?私も、エンジニアとして仕事をして20年を迎えるころから、疑問を持つようになった。前野さんも、そのように疑問に思うようになったようだ。

 

確かに、過去を振り返れば、戦後日本のGDPは増え、ものが豊かになった。前野さんは、”少なからず科学技術がこれらに貢献したと考えられる。一方で、過度な科学技術の進歩が、地球環境問題を導いた側面もある。公害、原発事故、交通事故、現代社会が抱える大きな問題は、科学技術の進歩に端をはっしていると言えるのでは”、と言っている。

そして、よく引用されるデータ、横軸に時間をとって、縦軸に一人当たりの実質GDP、あるいは生活満足度をとったグラフが引用される。GDPは右肩上がりに上がっているにもかかわらず、1960年代から2010年まで生活満足度は、一貫して一定なのだ。幸福論になると、必ず持ち出されるデータだろう。人々の幸福度は、GDPとは比例しない。経済的に豊かになったからといって、ヒトが幸せになるわけではない。

国別に、GDPと幸福度を比較したデータがあるのだが、日本は、そこそこ幸福度が高いほうだと言える。幸福度0~7で分布を取ると6のちょっと上くらい。ちなみにこのデータにはブータンが含まれない。なぜなら、そもそも幸福は国家比較するものではないから、という意思表示だそうだ。うん、それ、正しい。

 

比較しないにしても、前野さんは人間の心を幸福額という観点で研究するようになる。前野さん曰く、これまでの幸福額はバラバラで、それぞれの研究者が思い思いにそれぞれの研究成果を蓄積しているに過ぎなかったそうだ。前野さんは、それを体系化することに取り組んだ。そして、体系化したことを人々に伝え、生活や仕事に活かせるようにしたいと思って研究を進めた。

 

そもそも、幸福とはなにか??

トルストイの小説、『アンナ、カレーニナ』の冒頭が紹介されている

”幸福な家庭はみな似通っているが、不幸な家庭は不幸の相も様々である。”

これもよく聞く1文だけれども、そうか『アンナ・カレーニナ』だったんだ!!ときがついた。そうそう、『存在の耐えられない軽さ』の中で、主人公の女・テレザがトマーシュと出会ったときに持っていた本だ。つまり、幸せや不幸に関する本、、、、。これまた、この本を持っていたということにも深い意味があるのか・・。

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まぁとにかく前野さんは幸せを研究した。そして幸せの因子分析により明らかにした結果が本書にまとめられている。うんなかなか面白かった。

 

目次
序章 役に立つ幸福学とは
第1章 幸せ研究の基礎を知る。
第2章 幸せの4つの因子
第3章 幸せな人と社会の創り方


序章、第1章では幸福学についての基礎知識。一般的に幸福学、いわゆるウェルビーイング研究と言うと、主観的幸福と客観的幸福の測定に分けられる。主観的幸福と言うのは、まさに、その人本人がどのようにその幸福度を感じているかということ。前野さんの研究は、この主観的幸福を統計的に調べて、それを客観的に見てみようということ。客観的幸福論ではない。ここで言う客観的幸福論は、幸せを収入や学歴といった何かの因子で測ろうとすること。前野さんは、そもそも、幸せを図る因子そのものもふくめて、体系化することを試みた。その因子を導き出したところが一番の本書のポイントだろう。

 

そもそも幸せの指標とは何か。
一般的に幸せの指標として、「幸福度、生活満足度、ディーナーの人生満足度、感情的幸福」などがあるそうだが、「ディーナーの人生満足度」って?? 一瞬、ディナー、、、晩御飯の満足度か?とおもったらちがった。ディーナーさんの学説。

 

エド・ディーナーは、イリノイ大学の教授で幸福学の父とも言うべき人だそうだ。ディーナーの人生の満足尺度を測る質問は以下の5つ。

1  ほとんどの面で、私の人生は私の理想に近い
2  私の人生は、とても素晴らしい状態だ
3  私は自分の人生に満足している
4  私はこれまで自分の人生に求める大切なものを得てきた
5  もう一度人生をやり直せるとしても、ほとんど何も変えないだろう

これらの質問に対して、1から7のいずれかの点数で自分の答えを出し、5つの答えを足し算する。答えの1番低いのが1で全く当てはまらない。4がどちらとも言えない。7は非常によく当てはまる。

これを15歳から79歳までの日本人1500人で調査してみると、平均が18.9点だったそうだ。意外と低い。。。ちなみに私は29点だった。まぁお気楽に幸せな方だと言うことなのかもしれない。面白いのは、平均が18.9点だけれど、ヒストグラムで見ると、分布が20~24点にピークが来ているということ。満点が35点で、ピークはやや右寄りにあるけれど、左に広く分布している。これが、統計の面白いところ!


他にも様々な質問と点数化の項目があるので、実際自分でやってみると楽しいかもしれない。ポジティブ感情の8項目とか、ネガティブ感情の8項目とか。
それらの質問項目を見ていると、会社時代にやらされていたメンタルヘルスケアアンケートとよく似ている。別にポジティブが良くてネガティブが悪いということではないと思うけれど、あまりネガティブに偏っていると、、、やっぱり心身ともによろしくない。


いずれにしても、幸せの指標も要因もいろいろあって、1つで表せるものではない。

 

要因のわかりやすい事例として、収入と幸せの関係調査がある。

人は、もう少し収入があればもう少し幸せなはずだと思いがちだが、それはそうでもない。だが、人間は愚かにも収入が上がれば幸せになると思い込んでしまう。そんな人間の愚かな特性を「フォーカシングイリュージョン」と呼んだのがプリンストン大学名誉教授でノーベル経済学賞受賞者のダニエル・カーネマン。私も、大好きな行動経済学者だ。

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フォーカシングイリュージョンとは、間違ったところに焦点当ててしまうと言う意味。

つまり、人間は、所得等の特定の価値を得ることが、必ずしも幸福に直結しないにもかかわらず、それを過大評価してしまう傾向がある。フォーカスするところが、イリュージョン、幻想だってこと。ほんと、人間は愚かなのだ・・・でも、だから幸福だったりもするのだから、、、おかしなものだ。

カーネマンの研究によれば、年収と幸福はある一定のところまでは比例する。しかし、一定の年収を超えると幸福は相関しないという。一アメリカの例で言うと、75,000ドル、およそ1000万円の年収をもって、それ以上収入が増えても感情的な幸福度は上がらなくなるということらしい。似たような研究は日本ではあるけれど、大体年収700万円位だっただろうか。
日本だと、累進課税で税金が増えていく、、という事もあると思うけれど、普通に暮らしていくのなら年収700万円で衣食住の安心安全は十分に確保できる、ということなんだろう。


では、収入が上がれば幸せれるなんていうフォーカシングイリュージョンではなく、何がたしかな幸せなのか。

そこで出てくるのが、イギリスのダニエル・ネトルの言葉。

地位財と非地位財。

地位財と言うのは、周囲との比較により満足を得るもの。
非地位財と言うのは、他人との相対比較とは関係なく、幸せが得られるもの。

 

地位財の代表的なものが、所得、社会的地位、物的材(ブランド)
非地位財の代表的な物が、健康、自主性、社会への帰属意識、良質な環境、自由、愛情

 

地位財による幸福は長続きしないのに対し、非地位財による幸福は長続きすると言う重要な特徴があるということ。どっちが、幸せに寄与しそうか考えてみればよくわかる。長く続いて、人生全般にわたって寄与してくれる非地位財の方が、幸せになれる、ってこと。

では、非地位財の中でも、なにが自分を幸せにするのか。

自分はどうすれば幸せになるかを知るための方法として、カレンダー〇×法という面白い方法が紹介されている。

 

やり方は簡単で、毎日寝る前に一日を振り返る。1日を振り返って幸せだったら〇、不幸だったら× 、中位だったら△を書き込む。後からそれをみかえすと、自分がどんな日に幸せを感じたのかがわかるという。前野さんのケースだと、自分は自分の幸せは何か新しいことを思いついた時や、仕事の成果を上げた時だと思っていたけれど、実際に〇がついたのは面白い人に会ったり面白いことを聞いたりした日だったということ。

これはなかなか面白い方法かもしれない。私もちょっとやってみようかなと思った。何かパターンが見つかったら面白い。

 

前野さんのケース、ちょっと感覚的にわかる気がする。私は割とひとりでいるのが好きだけれど、1日1人で誰とも会わないで過ごした時の幸福感と、ちょっとでも誰かと食事をしたときの幸福感は、タイプが違う。他人と交わることが、良くも悪くも刺激になっているのだと思う。

 

そして、本書のメインパートは第2章だろう。

幸せの因子分析。因子分析とは、多変量解析の1つで多くのデータを解析し、その構造を明らかにするための手法。前野さんは幸せに対してそれをやったのだ。。ただ物事を分類するのではなく、物事の要因をいくつか求めて、それらの複数の要因がその物事にそれぞれどのくらいをしているかを数値化した。ちょっと難しいかもしれないけれど。、そういう手法を使って幸せ因子を解析したところがこの本の面白いところ。

解析の途中は省いて結果だけを覚書するが、前野さん達が見出した幸せの4つの因子。

それは、

「やってみよう」因子
「ありがとう」因子
「なんとかなる」因子
「あなたらしく」因子

それぞれ詳細に見てみると

 

1.「やってみよう」因子  自己実現と成長の因子
コンピテンス  私は有能である
社会の要請  私は社会の要請に応えている
個人的成長  私のこれまでの人生は、変化、学習成長に満ちていた
自己実現  今の自分はほんとになりたかった自分である。


2.「ありがとう」因子  つながりと感謝の因子
人を喜ばせる 人の喜ぶ顔が見たい解除
愛情  私を大切に思ってくれる人たちがいる
感謝  私は人生において感謝することがたくさんある
親切  私は日々の生活において、他者に親切にし、手助けをしたいと思っている


3. 「なんとかなる」因子  前向きと楽観の因子
楽観性  私は物事が思い通りにいくと思う
気持ちの切り替え  私は学校や仕事での失敗や不安な感情をあまり引きずらない
積極的な他者関係  私は他者との近しい関係を維持することができる
自己受容  自分が人生で多くのことを達成してきた

 

4.「あなたらしく」因子  独立とマイペースの因子
社会的比較思考のなさ  私は自分のすることと、他者がすることをあまり比較しない
制約の知覚のなさ  私に何ができて何ができないかは外部の制約のせいでは
自己概念の明確傾向  自分自身についての信念はあまり変化しない。
最大効果の追求  テレビを見るときは、あまり頻繁にチャネルを切り替えない


わたしなりに解釈すると、
やってみる勇気、感謝する気持ち、未来を信じる気持ち、人と比べない
って感じかな。 

「人と比べない」って、実は幸福論の一番大事なこと絵ではないだろうか。

ブータンが、他国と比べない、っていうのと同じ。

 

と、だいぶ長くなっちゃったのこれくらいにしておこう。

 

幸福は、人それぞれ。

でも、この4つの因子、自分はどうかな?って考えてみると、開ける未来があるかもしれない。

私の場合、すでにひらっきっぱなしで、もう少し絞れよ!って感じかもしれないけど。

 

心配しても解決しないことは心配しない。

それが、私の幸せのモットーかな。

なんとかなるし、なんとかするしかないのだ。

 

なかなか面白い一冊。