『饗宴』 by プラトン

饗宴
プラトン
朴一功 訳
京都大学学術出版会
2007年12月15日 初版第一刷発行

 

いわずとしれた、プラトンの名作『饗宴』。きっと、小難しい哲学の本なのだろうとおもって、これまで手にしたことがなかったのだけれど、ワインスクールの西洋史専門家、蜂須賀先生が、「ギリシャ時代の宴会の場での雑談みたいなもので、すごく面白いから一度読んでみて」とおっしゃっていたので、図書館で借りてみた。蜂須賀先生は、『奴隷のしつけ方』を紹介してくださった方。

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選んだのは、「京都大学学術出版会」が出版しているもので、細かく注釈が各ページについていて、本文だけでなく、注釈も楽しい。

訳者は、朴一功(ぱく いるごん)さん。1953年京都生まれ。2000年、京都大学博士(文学)。2005年、甲南女子大学教授、2007年には、大谷大学教授。

饗宴は、38章からなる。最初の方は、ギリシャ神話の神々がでてきて、もう、よくわから~ん、という感じだったのだけれど、中盤で、とうとうソクラテスの語りがでてくると、だんだん盛り上がって、面白くなってくる。

 

ストーリーは、ソクラテスの友人であり崇拝者でもあるアポロドロスが、友人たちに、ソクラテスが宴会で語ったらしい話を、どんなはなしだったか聞かせてくれ、と頼まれる場面から始まる。アポロドロスが語るのは、ソクラテスと一緒に、アガトン邸にお邪魔したというアリストデモスが語った話。また聞きの話をアポロドロスが友人にかたる、、という物語。

 

現代で言えば、、、この間の忘年会でどんな話になったか聞かせて、って、その忘年会には出席していないけれど、出席した友人がいる人に、きいている、、、って感じ。そして、聞かれた人(本作では、アポロドロス)が、まぁ、おれも(アリストデモスから)聞いただけだけどさぁ、、、結構、詳しく聞いたところによれば、、、、って感じで、話始める。

 

饗宴でのよたばなしを、面白おかしく聞かせている、、という感じだろうか。

 

そもそも、アガトンアテナイの喜劇作家)に招待されて饗宴に出向いたソクラテスだったけれど、ソクラテスが到着したころには、みんな宴会続きで、もう酒はほどほどにして、、、という状態になっている。そして、みんなでゴロゴロよこになりながら(ギリシャ時代の食事は寝ながらするのがマナー)うだうだしている。だったら、酒ばっかり飲んでいないで、何かについておおいに語りあおうじゃないか、ということになる。すると、医者であるエリュクシマコスが「エロース」をテーマに語り合おうと提案する。そして、「エロースとはなにか」をそれぞれが順番に語る、というお話。パイドロス、パウサニアス、エリュクシマコス、アガトン、、、と、それぞれが自分のエロース論をかたり、作品中盤で、ソクラテスが登場。ソクラテスは、マンティニアの女性ディオティマがソクラテスにかたったという、エロースについて話始める。そこが、ソクラテスとディオティマとの対話になっている。なるほど、対話によって導くという論法はこれか!って。

 

と、みんなが、なるほど!!と盛り上がっているところに、酔っ払いのアルキビアデスが乱入!ソクラテスのことを持ちあげつつも、ただの酔っ払い・・・。ソクラテスとアガトンが仲良くしていることにやきもちを焼いているアルキビアデスが、ソクラテスのことをベタホメしつつも、やきもち。質の悪い酔っ払い、アルキビアデス。

さらに、酔っ払いが乱入し、、、。みんな酔いつぶれる。

 

”もはや、何の秩序もなく、だれもがおびただしい量の酒を飲むはめになったのである”ってさ。

 

でも、ソクラテスだけはよっぱらうことのもなく、爽やかにお家に帰っていく、、。
ってな感じの話。

 

なんじゃこりゃ~~~!!
こんなはなしだったの!!!

と、びっくり。

確かに、面白い。時々、言葉遊びのような発言があったり、エロスそのものについても、「魂より肉体に恋するものは劣悪な人物だ!」と肉欲を非難してみたり。


エロースを語る上で、様々なギリシャ神話の神々がでてくるのだけれど、それは私は頭に入っていない。でも、注釈が結構細かくついていて、それを読んでいるだけでも面白い。

 

エロースとはなにか、愛とはなにか、、、。ようするに、宴会の席のたわごとのようでもあり、それでいて、りっぱな演説になっていて、時々、ちゃかすことばが飛び交ったり。まるで、一つの舞台をみているよう。下北沢の小劇場とかで、やってそう、、、って感じ。

 

しゃっくりが止まらなくなった人に、長い間息を止めてみろって助言したり。それでだめなら、水でうがい。それでもだめなら、鼻に刺激を与えて、くしゃみをしてみろ、って。

そんなちゃちゃが、おかしい。エロースとはまったく関係ない会話が時々はいっていて、劇場なら、ここでくすくす笑い、って感じ。


いろんなエロース論や論破術。

 

・より知性を持っているものに対してこそ、愛情を抱く。

 

・かつて人間は三種類いた。男、女、男女(両性)。あるとき、ゼウスは、男女は二つに切断されてしまった。だから、片方をいまでも追い求めてしまう。

 

・男は太陽から、女は大地から、男女は、月からうまれた。

 

・エロースは、神にも人間にも、不正を働かない。また、神からも人間からも不正をうけない。

 

・エロースは、正義に加えて、節制の徳ももっている。

 

「舌は約束したけれど、心は約束しなかった」といって、前言撤回。

 

・エロースとは、穏やかさをもたらし、野蛮を放逐するもの。好意を贈ることを愛し、悪意を与えぬもの。恵深く善きもの。この上なく美しく、この上なく善き導き手。

 

・智恵と無知との中間があるように、善いものと悪い物、美しい物と醜い物にも中間がある。知っていると知らないの間にも中間がある。

 

・男女が半身を求め続けるように、人は、「かけているもの」を求め続ける。そして、求めていることが幸福であり、手に入れたらその幸福は、、、、?!?!永遠に手に入れることをもとめるということは幸せであるけれど、永遠に手に入れた後の幸せはどこにある??


・”ソクラテスの酔っぱらっているところを、いまだかつて誰もみたことがない。”

 

なるほど、こういうお話だったんだ。

ギリシャ神話の神々がたくさんでてくるので、やっぱり、神話が頭に入っていたら、もっと簡単に楽しく読めるのだと思う。日本の神話も含めて、やっぱり、神話を極めると世の中の楽しみはおおいにふえるのだろう。

 

いつかは、はまってみたい、神話。老後の楽しみか、、、それでは遅すぎるか、、、。

 

『饗宴』こんなに面白いお話なら、もっと早くに読んでみればよかった。かって、ギリシャ哲学は難しい、なんて敬遠しているともったいない。彼らの語るエロース哲学は理解不明なところもあるけれど、酔っぱらう様子や、相手をちゃかすところは現代人とかわらない。さまざまな訳、さまざまな解釈があるようだけれど、やはり古典には独特の深さと面白みがある。

 

読書は楽しい。