『おんぶはこりごり』 by アンソニー・ブラウン

おんぶはこりごり
アンソニー・ブラウン 作
藤本朝巳 訳
平凡社
2005年3月16日 初版 第1刷 
2017年12月7日 初版 第4刷
PIGGYBOOK(1986)

 

『世界をひらく60冊の絵本』(中川素子、平凡社新書)の 「第五章  ジェンダーについて考える」からの紹介本。図書館で借りて読んでみた。

 

表紙には、4人家族。おかあさんが、お父さんをおんぶして、そこに子どもが二人、、、3人をおんぶしているおかあさんの口元は、わらっていない。。。お父さんは口をあけて笑っていて、子どもたちも、笑っている・・・。。

表紙をみただけで、あぁ、、、家族の世話に疲れたお母さんの話ね、、、、って感じ。
ほんと、その通りだった・・・。

 

表紙をめくると、
” ピゴットさんのおうちは 絵にかいたような しあわせそうなおうち。
 でもね・・・・・”
という言葉が、ピンクのハートの中に書かれている。

そして、
国際アンデルセン賞受賞画家が描く現代の家族の肖像。
  ユーモアあふれる展開に思わず笑ってしまうはず。”
と。

 

正直、苦笑、、、、、。読んでみればわかる。
苦笑・・・・。
けどねぇ、、、こうもなかなかいかないのよねぇ、、、、なんて声も聞こえてきそう。
お話は、一応、ハッピーエンド。
こういう風に解決できればいいんだけどね。


著者のアンソニー・ブラウンは、1946年イギリス、シェフィールド 生まれ。リーズ美術大学にて バウハウスを理念とする教育を受ける。 卒業後、 しばらくグラフィックデザインや 広告関係の仕事をする。その後、マンチェスター 王立病院で医学教材の制作、 また グリーティングカードの制作をしながら 生計を立てる。1976年、 初めての絵本を刊行。 以後、 ハミッシュ・ハミルトン社の編集者ジュリア・マクレーのもとで続々とシュールで独特な作品を発表。 人気絵本作家としての地位を築く。

 

 訳者の藤本さんは、 1953年 熊本生まれ。 世界の絵本、 昔話を研究する傍ら、 子供たちに 絵本の開き読みなどをして、読書普及活動も行っている。

 

最後に、訳者あとがきがあって、絵本の中に隠されたアンソニー・ブラウンの様々ないたずら心の種明かしもあって、面白い。

 

お話は、 ピゴット夫人と夫、サイモン、パトリックという二人の男の子の家族におきたこと。

 

家族は、素敵なお家に住んでいて、綺麗な庭があって、立派な車がある。でも、ママは、家の中でいつもみんなのお世話をしている。


「ママ、あさごはんはまだかい」と叫んで食卓で新聞を広げている夫。
「ママ、あさごはんまだー」といって、席について口を開けているだけの子どもたち。

 

次のページには、見開きで、4つのママの姿。
朝ごはんの片づけをするママ。
ベッドをなおしているママ。
掃除機をかけているママ。
やっと仕事に出かけるママ。

 

どの絵のママも、顔が見えない。。うつむいているか、後ろをむいているか、横顔か、、、。すくなくとも、笑顔ではなさそうだ。

 

こんどは、夕ご飯。
同じセリフが繰り返される。
「ママ、ゆうごはん、まだー」
「ママ、ゆうごはんは、まだかい」
ここで、ソファーに座って叫んでいる夫の影が壁にうつっている。その影は、ブタ。
次のページは、夫の口元から食卓までのズームアップがページいっぱいに。片手には、ソーセージを刺したフォーク。

 

次のページは、また、ママの時間の4コマ。
おさらあらい。
アイロン。
洗濯。
朝ごはんの用意。

 

次のページは、ソファーでゴロゴロしてくつろいでいる男三人。猫まで一緒にソファーの上でのんびり・・・。犬は床でのびーーー。

 

ある日の夕方、子どもたちが帰ってくると、「おかえり」と言ってくれる人がいない。パパが帰ってきても。
「ママは、どこだ?」


だんろの上に置手紙をして、ママはでていった。

「ぶたさんたちのおせわは もうこりごり!」

部屋にある写真から、花瓶、ありとあらゆるものにブタの顔・・・。さっきまでチューリップが並んでいた壁紙も、お花がブタに、、、。

そして、男三人はブタの姿に・・・。


しょうがないから、パパが作った晩御飯は、用意するのは大変だし、酷い味。朝ごはんも酷い味。机の上は、散らかしっぱなし。洗い物は山。

まもなく家は、ブタゴヤのようになりました。

「ママはいつかえってくるの?」
「しるもんか」と、パパ。

汚れたままの服を着て、ブタの顔の3人が並ぶ家の窓の外には、オオカミの影が・・・・。

 

とうとう、あるばん、料理の材料がなくなりました。
這いまわって、食べ物を探していると、ママがかえってきました。

 

汚れた床を這いまわる3人の姿は、お尻しか見えていない。床も壁も、汚れている。壁紙もソファーの模様も、ブタだらけ。。。。そして、ママの姿が影で描かれている。

「 おかえりなさいませ、 おかあさま」
3人は涙声で言いました。

膝をついて、正座のように座って、手をついてママを迎える三人、、、というか、三匹。ここまで、3人はブタになっている。

 

次のページで、3人の姿は人間に戻っている。

 

そして、
パパはお皿をあらうようになり、
サイモンとパトリックは、ベッドをなおすようになり、
パパはアイロンがけまでするようになった。

 

三人は、台所をてつだうようになりました。
それに、料理をするのが楽しいと思うようになりました。

ママは幸せでした。

 

はじめて、ママの笑顔が描かれる。そのほっぺには、なぜか黒い汚れが。

ページをめくると、
ママだって、車の修理ができるのよ、と、ボンネットを開けて何やら作業しているママの姿。

 

THE END 

 

なんてシュール!!!!

訳者あとがきによれば、原書のタイトルは、PIGGYBOOKで、piggy back(おんぶ)とかけてあるのではないか、と。

そして、ママの置手紙の絵が、本の裏になっている。そこには、

"You are pigs."

強烈!

おまえら、ぶただ!っていって、家を出て行ったママ、、、。

訳者は、やさしく、「ぶたさんたちのおせわは もうこりごり!」ってしているけど、、、ね。

 

いやぁ、、、昭和の日本でも、いかにもありそうな姿。でも、子どもを残して家を空ける勇気なんて、、なかなかないだろうなぁ、、、と思う。

こんな風に、上手くいけばいいけど、、、、ね。

 

コロナで在宅勤務が増えた時、共働き家庭では「ランチは手をかけない」ルールにした、という人が多かった。あるいは、ランチは各自でとる、というのも含めて。
夫婦二人ならともかく、子どもがいたら、どうしたって食事の準備が必要になる。朝昼晩三食準備する日が数か月続くなんて、、、、。大変だよなぁ、、、、と、ひとごとながら、思った。

家族それぞれの役割分担、みんなが自分のことは自分ですれば、だれかがやる、、、ってならないんだけどね。なかなか、そううまくはいかないよね。 

 

You are pigs!

そういって、家を留守にする勇気が必要、、、っていうことになりませんように。

 

このシュールさ、楽しい。

この作家の他の絵本も、ちょっと読んでみたい。