コモングッド
公益・公共善・良識
ロバート・B・ライシュ
雨宮寛・ 今井章子 訳
東洋経済新報社
2024年10月29日発行
THE COMMON GOOD (2018)
日経新聞 2024年12月14日の書評で 紹介されていた本。
記事では、
”富める者がますます富み、多くの人びとは連帯や寛容さを失った。米大統領選でのトランプ氏の返り咲きは、そんな米国の現状を改めて思い起こさせた。
本書はクリントン政権で労働長官も務めた経済学者が「アメリカ人が共通して保持してきた善」だとする「コモングッド」がいかに失われてきたか、どう取り戻すべきかを真摯に問う。(中略)
原書の刊行は2018年とやや古いが、警鐘の切迫度はむしろ強まっている。訳者は「コモングッド」を文脈に応じて「共益」「公共善」「良識」と丁寧に使い分け、読者の理解を助ける”
とあった。
確かに、2018年の本であって、実は、トランプ政権第一期の中での出版。あちこちに、トランプの言動と思われる引用があって、失われたコモングッドへの警笛をならしている。著者は、今回のトランプ第二期の始まりは、どういう気持ちでいるのだろう、、、と思う。
著者のロバート・B・ライシュは、 1946年 ペンシルバニア州生まれ。 カリフォルニア大学バークレー校 ゴールドマン公共政策大学院 教授。 及び ブルム開発経済 センターのシニア・フェロー。 ビル・クリントン政権での労働長官をはじめ 3つの政権に仕えたほか、 オバマ大統領のアドバイザーも務めた。『暴走する 資本主義』(2008)などの著書もあり。
表紙には、タイトルの他、
「暴走する資本主義社会で倫理を語る」ともある。
目次
はじめに
第1部 「コモングッド」とは何か
第1章 シュクレリ
第2章 私たちはどんなコモングッドを共有しているのか
第3章 「コモングッド」の起源
第2部 「コモングッド」に何が起こったか
第4章 搾取
第5章 3つの構造的崩壊
第6章 「コモングット」の衰退
第3部 「コモングッド」は取り戻せるか
第7章 受諾者精神というリーダーシップ
第8章 名誉と恥
第9章 真実の復活
第10章 みんなのための市民教育
謝辞
訳者あとがき
「コモングッド」ディスカッション・ガイド
推薦文献リスト
索引
感想。
おぉ。ドストライクに、善人の声をきいた気がする。おっしゃること、その通り。まさに、正論。きっと、これを言わずにはいられない、、、という気持ちでかかれたのではないだろうか。まぁ、誰もがそうだろうけれど。
よき市民社会をつくるためには、なにが必要かを語った一冊。著者が間違っていると思う行いをしてきた人と、正しい行いをしてきたと思っている人が、具体的な個人名で語られているので、実にわかりやすい。もちろん、アメリカが舞台の話なので、アメリカ人の話だけれど。
はじめに、で著者が若いころに感銘をうけた ジョン・F・ケネディの言葉が引用されている。
「 国があなた に何ができるかを問うのではなく、あなたが祖国のために何ができるのかを問うてほしい」
14歳でこの言葉に接した著者は、その7年後、ケネディ大統領の弟ロバート・F・ケネディ上院議員の事務所で夏のインターンをしながら、ささやかな形で国のために役立つ仕事をしているのだ、と自分に言い聞かせた。
そんな著者の、70代になってからの著書。
大きなメッセージとして3つ、受け取った。
1 「教育」が稼げる人をつくる私的投資で終わってはいけない。
2 社会をより良いものにするための仕組みは、「慈善」ではなくみんなの約束事。
3 「恥」を知れ!
1は、教育の大事さ。教育を私的利益のためにしか使えなかった残念な人の実例が、第1章のシュクレリ。 1983年 ニューヨークのブルックリン 生まれで、 両親はアルバニアからの移民。 高い知能を持つ生徒のための公立校 ハンターカレッジ・ハイスクールへ通い、2004年 ニューヨーク市立大学 バルーク校で経営学の学位を取得。 自ら ヘッジファンドを立ち上げ、特定のバイオ技術企業群の株で大儲けした。しかし、株価の操作やバイオ 製薬会社の経営を通じて、己の利益だけを追求した。WHOが「エッセンシャル・ドラッグ」に指定された薬の国内販売権を獲得すると、薬価を50倍以上引き上げた。非難されても、これが資本主義のルールだといって開き直った。シュクレリは、8件の詐欺案件で有罪となった。
残念な人・・・。
教育は、コモングッドのためにいかされなければならない、ということ。そして、より良い社会をつくるというのは、慈善活動ではなく、各人が守らねばならないルールがあるということ。
他にも、 ウォーターゲート事件のニクソン元大統領、 ハリウッドのワインシュタイン(長年のセクハラで訴えられた)などの悪行が、説明されている。
一方で、善き人の例として、政治家のジェームズ・Q・ウィルソン(貧困地域のビルの窓ガラスを放置しておくことの悪影響を説いた。)、ジョン・マケイン、NBAコーチのスティーブ・カー、などがでてくる。
みんな、異なる意見の人を糾弾するのではなく、ただしく反論、あるいは取り合わなかった。政治の場であれ、ビジネスの場であれ、分断を招くだけの発言には価値がない。正しく、話し合いをするべきであり、それができない相手であれば、どこかで話を打ち切るべき。カーは、トランプの暴言をうまくかわした。
「恥を知れ」って、じつは、武士道の言葉である。それが、本書でも言及されているのだ。まさに、いまこそ「武士道」が求められているのか。著者はトランプに対して、「恥を知れ」と言っている。たしかに、、、彼ほど恥を知らない人はいないかもしれない。
よく考えると、自分自身の日々の行動でも、「恥を知れ」を心に留めておくと、間違った方にはいかないのではないだろうか。
以前読んだ『WEIRD』の中では、 家族親族主義の人は恥で自制し 個人主義の人は罪で自制するという節があったが、中には、恥も罪も感じない人がいるということか。。。残念な人。
私だって、聖人君子じゃないからいろんな間違ったことも言うし、間違った行いをすることもある。でも、一応、「羞恥心」はもっている、つもりだ。
とてもまともなことを言っているので、読んでいて、すがすがしい。しかも、人生経験豊かな著者の言葉だから、なおさら響くのだろう。私は、性善説を信じている派なので、本書を読むと、みんなが「コモングッド」を考えたくなると信じている。
気になったところを覚え書き。
・ 私たちが共通して持っている 「善」とは、法の意図と精神をも含めた「法による統治」を尊重し、 実践し続けることであり、 民主的な仕組みを守ることであり、 真実を見出して広めていくことであり、 変化を受け入れ 互いの相違に寛容であることである。
・私たちは「コモングッド(公共善)」を共有していかなくてはいけない。
・ジェームズ・Q・ウィルソン: 貧困地域の建物の割れた窓ガラスがそのまま放置されていると、ここでは割れ窓など誰も気にしないのだというサインとなり、 窓ガラスを割ってはいけないという規範を誰も守ろうとしなくなる。
様々な、組織運営の話でもよく引用される言葉。なぜ、落ちているゴミを放置してはいけないのか。なぜ、ズルを放置してはいけないのか。規範は、守られねばならない。
・ ウォーターゲート事件:1972年初め、ニクソン大統領は再選を見据え、民主党本部に盗聴器をしかけるなど、不法侵入を含む偵察・妨害工作に走った。手段を択ばず勝つ政治は、コモングッドの軽視。
・トランプによる党対立を加速させる政策は、近視眼的な政治目的のために、アメリカの政治の仕組みを毀損した。
・ジョン・マケインは、「手段を選ばず勝つ」戦略を否定した。党派争いで勝つことよりも、国家の統治体制を維持し強化することが大事であると喚起した。病気をおして、オバマケア廃止法案阻止のために投票した。
・「コモングッド」をあからさまに軽視する人は、多くの場合「恥」を感じる能力も低い。文字通り「恥知らず」なのである。
・「教育」は、「公益」であるべきで、「私的投資」であってはいけない。
・社会をより良いものにするための仕組みは、「慈善」ではなくみんなの約束事。 自分たちが親世代から委ねられた社会を。より理想に近づけた状態で次の世代に手渡すという約束事。
・神学者ラインホールド・ニーバーの言葉。
「 取り組む価値のあることは、 一生のうちには成就し得ない。 それがゆえに、 人々は『希望』によって 救われなければならないのである。 歴史の流れにおいて、 本当のこと、 美しいこと、善であることは何一つ、 すぐには理解されないのだ。」
訳者あとがきは、「コモングッドとシニズム(冷笑)の狭間に」というタイトルになっている。本書の内容は、2024年の日本社会にも十分に通じるものがある、という話。恥を知らないのも困りものだが「シニズム」の広がりも残念なことだ。シニズムは、諦めにもつながる。やっぱり、冷笑ではなく、朗笑な気分で生活を送れる社会にしていくべきだ、と。
アメリカ人のすべてがトランプ的やり方を肯定しているわけではない。大統領は、共和党支持者のための大統領ではなく、アメリカのための大統領のはず。昨今のグリーンランドやメキシコ湾に関する発言を聞いていると、「恥」という文字はないように見える。さて、どういうアメリカになっていくのか。。。
余談だが、本日、2025年1月15日の日経新聞朝刊1面の「春秋」に、「ムーミン谷の仲間たち」の「ぞっとする話」の引用があり、妄想癖の少年が架空の話を次々と作り出し周囲を混乱に巻き込んで、ミイに「嘘、でたらめがいかに人を傷つけるか」と教えられるという話が出ていた。現実の世界のトランプのカナダは51番目の州になりたがっているとか、グリーンランド購入の話だ。結びは、”今の私たちにはミイが必要だ”って。
ちょっと真面目に、一人の日本人として、地球人として、コモングッドを考えてみたくなる一冊。悪いことは、悪いって、言わないといけない。でも、それも、意外と難しい。。。行動しないということが、恥ずかしいことであることもある。いじめをみて見ぬふりをするとか、、、ね。勇気も大事だ。
やっぱり、読書は楽しい。
