『暗幕のゲルニカ』 by  原田マハ

暗幕のゲルニカ
原田マハ
新潮文庫
平成30年7月1日 発行
令和2年9月15日 8刷
*本作は、平成28年3月 新潮社より刊行された。

 

原田さんの本。図書館で見かけたので借りてみた。ゲルニカ、言わずと知れたピカソの名作「ゲルニカ」を巡るお話なのだろう、と思って手に取った。
装丁も、ゲルニカ

ゲルニカの絵だけでも、十分におどろおどろしいのに「 暗幕」のとついている。 不穏な雰囲気、醸しまくりの一冊。

 

裏表紙の説明には

”ニューヨーク、国連本部。 イラク攻撃を宣言する米国務長官の背後から、ゲルニカタペストリーが消えた。MoMAのキュレーター 八神瑤子は、ピカソの名画を巡る陰謀に巻き込まれていく。故国スペイン内戦下に創造した衝撃作に、世紀の画家は何を託したか。ピカソの恋人で写真家のドラ・マールが生きた過去と瑤子が生きる現代との交錯の中でたどり着く一つの真実。怒涛のアート サスペンス!”
と。

 

またまた、原田さんお得意の、今と過去が交差するストーリー。史実とフィクションが時々わからなくなる。え~~い、史実でもフィクションでも、どっちでもいいから、読んでしまえ!って感じで、一気読み。

 

感想。
あぁぁ、やっぱり面白かった。そして、ちょっとシリアスに、世界平和を考える。戦争のない世界を思わずにはいられない。おりしも、広島でG7が始まり、ウクライナのゼレンスキー大統領も参加。いやぁ、、、、。人は、何も学んでないのかもしれない。

 

ゲルニカ」は、1937年6月に完成したスペイン出身の画家、パブロ・ピカソによる壁画サイズの油彩作品。縦349cm×横777cm。つまり、とても大きな作品。3.5m×7m越えだから、どうしたって、見上げる大きさの作品。内戦が起きたスペインに対して、反乱軍を支援しようとドイツ空軍がビスカヤ県のゲルニカを都市無差別爆撃した。その衝撃を、爆撃後の惨状としてモノクロで描かれた作品。美術の教科書などで、目にしたことがあるかもしれない。いや、反戦メッセージが強すぎて、教科書ではないどこかで目にしているのかもしれない。今は、スペインのソフィア王妃芸術センターが所蔵している。

多分、見れば、あ、これか、、、、とわかる作品。

 

本書の中で、「現在」となっているのは、2001年9月11日、アメリ同時多発テロ、発生前後。本書が平成28年作というのだから、西暦2016年の作品。もちろん、ウクライナへのロシア侵攻前の話だ・・・。あれから、、、2001年から20年もたっているのに、ゲルニカの悲劇と同じように、一般市民が戦争に巻き込まれている。ピカソが生きていたら、何を描いただろうか。。。

 

同時多発テロのあと、アメリカがイランを攻撃するのには、「戦争」という言葉は使わなかった。イラクへの武力行使は、「テロとの闘い」と表現し、「ファイトバック」やられたからやり返すのだと、、、、。それを国連は認めたのだ・・・。後に、大量破壊兵器なんてなかったことが明らかとなった、、、。そんな歴史背景が、ストーリーの中に織り込まれている。当時の大統領の名前こそ、仮名だけど、だれもが、あぁ、、、、やってしまった、あの大統領、、、と思うだろう。そう、ジョージ・W・ブッシュ大統領だ。本書の中では、仮名となっている。

 

そんな、背景をもとにした、原田さんの渾身の一作、という感じ。アートミステリーであり、反戦メッセージも感じずには、いられない。現在進行中のロシアのウクライナ侵攻がなければ、フィクションとしてただ楽しく読むことができたかもしれないけれど、今も地球のどこかで、何の罪もない人が様々な暴力の危機にさらされていることを思うと、胸が痛む。

 

ピカソの時代のパートは、フランスとドイツの攻防、スペインの共産化。1930年代、そうだ、時代は、そうだったのだ。スペインが民主化したのは、1977年のことなのだ。今でも、分離独立の動きもある。ヨーロッパの歴史は、私にはまだまだ理解できていない。本書は、世界大戦のころの歴史の勉強にもなった。

 

チョットだけネタバレ。

主人公は、MoMAのキュレーターとして活躍する日本人女性、八神瑤子。ピカソの勉強で滞在していたマドリッドで出会った夫のイーサンとニューヨークに住んで、7年目。幸せな結婚生活をしていたのに、9.11で、突然、イーサンを失う。絶望の中、瑤子の生きる希望となったのは、アートだった。イーサンも応援してくれていた、アートの力を伝えること、瑤子は仕事に自分の想いを込めるのだった。瑤子は、世界的にも認められるピカソ研究者となっていて、ピカソのアートの力を世界に伝えることを強く決意する。

9.11前から、瑤子が企画していた「ピカソの展示会」は、テロ攻撃によってやむなく中断され、1年以上の後にその主旨を「ピカソの戦争」と題して、再度企画が練り直されることとなった。

主役は「ゲルニカ」だったのだが、その「ゲルニカ」をめぐって、アメリカのイラクへの武力行使、国連が容認したことなどが重なり、瑤子は現在スペインにある「ゲルニカ」をMoMAへ貸し出してもらうために奔走する。ホワイトハウス反戦報道への警戒、アートとしてのゲルニカ、、、。

そして、そこにかぶせるように、ピカソがパリ万博で「ゲルニカ」を制作するにいたった物語が挿入される。「泣く女」のモデルとして知られる愛人、ドラ・マールとの日々。ドラが見つめるピカソの描くことへの執念。ピカソの娘を生んだことで知られるもう一人のピカソの愛人、マリ・テレーズとの女の戦い。

ゲルニカ」をスペインのレイナ・ソフィア芸術センターから、MoMAへ貸し出してもらうために、瑤子は何度もマドリッドに飛ぶことになる。そして、「ゲルニカ」を破壊しようとするゲルニカの悲劇の地、ビルバオ地方のテロリストに拉致され、、、、、。。

 

それ以上のネタバレはやめておこう。
でも、まぁ、最後は、やっぱり、ハッピーエンドなのだ。

 

そして、瑤子を支えるMoMAの職員のなかに、ティム・ブラウンの名前が、、、。
あれ? そう、『楽園のカンヴァス』の主人公だった、ティム・ブラウンだ。

おちゃめだなぁ。

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エンタメでありながら、なかなか深いストーリー。原田さんが語るのではなく、ピカソが語る、反戦、かなぁ。。。。 

 

本作品の中で、瑤子はスペイン語を自由に操るニューヨーカー。スペイン語が話せたからこそ、テロリストに拉致されても、彼らとコミュニケーションができたのだ。言葉は、やはり、相手に通じる言語を自分で話せるって、強い。

 

広島G7のニュースの中で、たびたび被爆者の方がでてくるが、みなさん、英語で語られる。ずっと被ばく者であることを隠してきたのに、70歳をすぎてから語り出したという女性は、70歳になってから英語を学び、英語で語り始めたのだそうだ。アメリカの大学生の前で英語でかたり、スピーチの後には、学生から盛大な拍手をうけていた。

すごいなぁ。。。

 

ピカソには、アートで発信するという力があった。ミュージシャンなら、音楽で発信するのだろう。アートや音楽に頼れない一般の人は、やはり言葉で語るしかない。

言葉を大切にしよう。

そして、あらゆる芸術は、やはりメッセージなのだと、、、思った。

コロナが広がり世界の動きが止まったとき、アートを最初に守ると宣言したメルケルさんは、やっぱり、すごい発信者なのだ。

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あらゆるメッセージは、誰かに向けて発せられる。

それを受け流すのか、受け止めるのか、それを判断するのは、受け手でいい。

情報社会だからこそ、何を受け止めるのか、自分で判断しないといけない。

絵画から受け止めるメッセージも人それぞれ。

一度、ゲルニカの本物、見てみたいな。。。。、

その時、私は何を思うだろうか。。。

 

原田さんの本をよむと、アートに没入したくなる。。

読書は、楽しい。