『ハーバード日本史教室』by 佐藤智恵

ハーバード日本史教室
佐藤智恵
中公新書ラクレ
2017年10月10日 発行

 

このところ、日本史の勉強をせねば、、と思っている。もっと日本史を知りたいのだ。図書館で、歴史の棚を覗いて、日本の歴史に関する簡単に読めそうな本を探した。目に入った一冊。ハーバードとあるし、海外から見た日本という視点も大事だろう、とおもって、借りて読んでみた。

 

裏の内容紹介には、
”世界最高の学び舎、 ハーバード大学の教員や学生は日本史から何を学んでいるのか。『源氏物語』『忠臣蔵』から城山三郎まで取り上げる 一方、 玉音放送を読み上げて日本の天皇制について考えたり、和食の奥深さをかみしめたり。 授業には日本人も知らない日本の魅力が溢れていた。 アマルティア・セン、 アンドルー・ゴードン、 エズラ・ボーゲルジョセフ・ナイ他、ハーバード大の教授 10人のインタビューを通して世界から見た日本の価値を再発見する 一冊。”
とある。

 

 著者の佐藤智恵さんは1970年 兵庫県生まれ。 作家、 コンサルタント。 92年 東京大学教養学部卒業。 2001年 コロンビア大学 経営大学院修了(MBA)。 NHK ボストンコンサルティンググループ外資系テレビ局などを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立、とのこと。

 

感想。
面白い!日本史そのものを語るというより、日本という国の文化がどう作られてきたかを語る本、という感じだろうか。日本人のわたしにも、新鮮。ハーバードでここにでてくる教授たちの授業を受けてみたい、と思った。日本人なのに、日本人だからこそ学校で習っていない歴史、外からの見方というのがある。私ってば、なんにも考えないで、生きてるなぁ、、、と思った。ま、それはそれで、幸せなんだけどね。けど、もっと、知りたい。日本のことをもっと理解したい、とおもった一冊。海外から日本がどのように見られているかを知ることは、日本人として理解しておいた方がよいのだと思う。結構、貴重な気づきをくれた一冊。

 

目次
はじめに
序 ハーバード大学と日本人
第1講義 教養としての『源氏物語』と城山三郎
 日本通史 アンドール・ゴードン
第2講義 『忠臣蔵』に共感する学生たち
 江戸時代 デビッド・ハウエル
第3講義 龍馬、西郷は「脇役」、木戸、大久保こそ「主役」
 明治維新 アルバート・グレイグ
第4講義 ハーバードの教授が涙する被災地の物語
 環境史 イアン・ジャレッド・ミラー
第5講義 格差を広げないサムライ資本主義
 アジア研究 エズラ・ヴォーゲル
第6講義 渋沢栄一ならトランプにこう忠告する
 経営史 ジェフリー・ジョーンズ
第7講義 昭和天皇のモラルリーダーシップ
 リーダー論 サンドラ・サッチャー
第8講義 築地市場から見えてくる日本の強みと弱み
 和食の歴史 テオドル・べスター
第9講義 日本は核武装すべきか
 日本関係史 ジョセフ・ナイ
第10講義 世界に日本という国があってよかった
 経済学 アマルティア・セン

 

参考資料がついて、258ページの新書。それでも、面白くてあっという間に読んでしまった。

ページを開いて最初に飛び込んでくるのは、2つの問題。ハーバード大学の日本史の授業「アジアの中の日本、世界の中の日本」の期末試験とのこと。

 

(A)
日本と朝鮮半島の間には、緊張かつ複雑な歴史がある。古代から近代までの間で3つ または4つの時代を取り上げ、「友好」と「敵対」という側面から、両者の関係の変遷を説明せよ。
(B)
日本の歴史の転換点である 1600年、1868年、1945年の中でどの年が最も重要だと考えるか。日本の政治、社会、文化の変革に与えた影響という観点から、その理由を述べよ。 また 他の2つの年の重要性についても 論述せよ。
(所用時間50分、文字制限なし)

 

さぁ、どう答えるか?!?!即、降参してしまいたくなるような、深い話だ。(A)は、朝鮮半島と中国を別に考える必要があるだろうし、(B)は、結局のところ全ての年について説明が求められている。50分か、、、。これに応えられるハーバード大学生は、そこらの日本の学生より、社会人より、よく日本を知っている人たちかもしれない。

 

第1講義では、映画『チョコレートと兵隊』が取り上げられる。戦争にいった父親が、日本に残してきた息子に、ポイント交換付きのチョコレートを送り続ける話らしい。ポイントが溜まったとき、父親の戦士の知らせが届く。とても悲しいお話だそうだ。でも、これが、戦争のプロパガンダ映画だったのだという。「困難なことがあっても、一致団結して耐え抜こう」と訴える映画だったとも解釈できる。それが、日本のプロパガンダのやり方だったのだと。一方、監督は実は反戦のメッセージもこめていたのではないか、と。そういう日本の文化背景について。源氏物語は、ロリコン趣味の変態として、あまり人気ないらしい。まぁ、さもありなん。。。

 

第2講義では、『忠臣蔵』や『武士道』について。江戸時代の特徴として、幕府が直接領土を統治する仕組みではなかった。だから、国政としての柔軟性があり、それが江戸時代が長くつづいた要因ではなかったのか、と。『忠臣蔵』は、学生たちに「素晴らしい物語だ」と人気があるらしい。「切腹」も、大義をまっとうするということで共感されるのだと。キリスト教の国では、自殺は罪であり、切腹は野蛮だと考えるけれど、肉体的苦痛に立ち向かう勇気ある行動、ととらえる人もいる、と。
切腹、ぜったいにしたくない・・・・。痛そうすぎる。それは、勇気でもなんでもない、、と現代なら言える。

 

第3講義では、幕末から明治の長州や薩摩の活動について。両藩とも幕末より前から藩政改革に成功していたから、経済力があり、明治維新を主導することができた。両藩とも江戸幕府から遠く離れていたというのも、独自政策をとる利点となった。

 

第4講義は、かつて宮古市の小・中学校で教師をしていたというイアン・ジャレッド・ミラーが担当。著者の、宮古市は過去に何度も津波に襲われているのに、なぜ人々はそこに住み続けるのか?という質問に対して、経済的理由(漁業を営んでいる)ということとは別に、「人間としての責任感」があるのではないか、と。「土地倫理」という生態学者アルド・レオポルドの概念を引用し、人間は土地の支配者ではなく、一構成員であり、その構成員の一つである人間には、相応の責任が発生するという考え方。
故郷にこだわる人間の性というのは、自分がその生態系の一員と感じているからなのか?ちょっと、面白い、と思った。

 

第6講義では、渋沢栄一岩崎弥太郎が比較されている。岩崎弥太郎は、「西洋のシステムをどんどん取り入れよう」「お金を稼いで豊かになろう」を実践したリーダー。自分が稼いで豊かになる。その上で、富の配分。一方の渋沢栄一は、自分が豊かになるという利己的なところはなかった。トランプ大統領に似ているのは弥太郎だ、、、って。面白い。渋沢栄一儒教の教えを現代に合うように再構築したともいえる、と。

 

第7講義 昭和天皇の話から、トールマンの決断について学生たちに討議させるという話。トールマンは、原子爆弾の投下を決断した。それは、本当に戦争を早くに終わらせるためだったと正当化できるのか?最近では多くの学生は、NOと答えるらしい。
トールマンの話とは別に、教授は、「道徳離脱」の講義をしている。道徳離脱とは、「小さな不正行為からひどい残虐行為まで、無意識のうちに人間を悪い行動へと導く精神的なプロセス」だそうだ。自己正当化が、いつの時代も犯罪の一番の引き金になる。。。それは、日本もアメリカもかわらない。人間の性か・・・。
そして、昭和天皇の「終戦詔書玉音放送を学生に聴かせたうえで、そのモラルリーダーシップを説く。戦争を終結させる決断がどれほど難しい情況であったのか。降伏すれば自らの地位、命が危うくなる危険もあった。それでも、周囲の意見も聞き、終戦を決断した昭和天皇。一方のトールマンは、誰に相談することもなく、独断で決めた。そこにモラルはあったのか?と疑問を投げかける。
 教授は、日本はこれからも「世界の良心」であり続け、軍事力を使わなくとも、世界と友好関係を築けることを示す模範国であり続けることを祈っています、と、結ぶ。
 どうやら、今の日本は、、、私たちは、教授の祈りには背いていないだろうか・・・。

 

第8講義では、和食のはなし。2013年、「和食」はユネスコ無形文化遺産に登録された。和食を研究しているテオドル・べスター教授は、築地では知らない人がいない、というくらい有名だそうだ。そして、和食が特別なのは「下ごしらえ」だそうだ。美味しさも、美しさも、「下ごしらえ」があるから。
おぉ。。。。素晴らしい意見!ただ、切って焼いた、煮た、っていうのとは違う下ごしらえの妙技。わかるなぁ。

 

余談。先日、銀座の和食屋さんに行ったとき、大将が大根のツマを作っていた。かつらむきして、千切りにする。その前に、丁寧に大根の皮を剝かれていた。「どこまで皮をむくんですか?」と思わず聞いてしまった。「包丁がスッと入るようになるまで」皮をむくと、美しいかつらむきになるのだそうだ。。。。って、私には、むりかもしれないけど、、ね。そして、美しい千切りにしてから水にさらし、斜めにしたざるの上で水気を自然に落とす。仲良しの仲居さん曰く、「これなら、いくらでも食べられますよ。」と。いつもシャキッとみずみずしいツマの裏には、こんな下ごしらえが隠されていたのだ・・・。

 

第9講義、日本は核武装すべきか?ジョセフ・ナイ教授の答えは、「日本が核武装をしたからといって、日本の安全が保障されるのでしょうか?」と。それより、米軍と自衛隊が緊密に連携し合うことの方が大事だろう、と。
かつ、今の日本の最大の課題は、「人口問題」である、と。それを解決するには、
1 移民の受けれ
2 テクノロジーの活用
3 人的資源を活かすこと
とし、2016年「男女格差指数ランキング」で日本のジェンダーギャップは、144カ国中111位だったと。そして、これからはもっとよくなるだろう、と。

いやはや、、、2022年には、146カ国中、116位でした。。。。
もう、言葉がでない・・・。

 

第10講義では、日本のすばらしさを語ってくれているのだが、はたして、本当にそうなのか、、、。セン教授が子供の時にならったという、インドにおける古くからの考えが紹介されている。
「善き人になるためには3つの道がある」とし、
1 知識を得る道
2 神に帰依する道
3 良い行動を実践する道
どの道を選ぶにしても「知識」が必要となる。日本は古くから「知識」によって国を発展させようとしてきた歴史がある、と。遣唐使をおくったのも、知識を得るためだ。鎖国中でも、交易をしていたのも知識を得るため。そうか、日本は「知識」を大事にする国なのか。
それは、確かにそうかもしれない。。。

そして、セン教授は、「経済学のマザーテレサ」と呼ばれていて、経済学に人間性を取り入れた最初の学者といわれている、という話。セン教授は、経済学に人間性を取り入れたのは私が最初ではない、といって、アダム・スミスを取り上げる。アダム・スミスは、経済学者である前に、道徳哲学の教授だったのだ。やっぱり、アダム・スミスは、個人主義も強欲資本主義も薦めていない。人間性を大事にする道徳のひとだったのだ。

megureca.hatenablog.com

megureca.hatenablog.com


どの話も、なかなか興味深い。
面白い一冊だった。
それぞれの教授の著書を読んでみたいな、という気になった。
また、読みたい本が増えちゃった。 

 

図書館で出会った本を読み漁るのも、楽しい。