『歴史の愉しみ方 忍者・合戦・幕末史に学ぶ』 by 磯田道史 

歴史の愉しみ方 忍者・合戦・幕末史に学ぶ 
磯田道史 
中公新書
2012年10月25日 発行

 

 図書館の新書コーナー、歴史の棚で見つけた本。磯田さんの本は、読みやすいし、「愉しみ方」というタイトルに惹かれて借りてみた。

 

磯田さんは、1970年、岡山県生れ。2021年から国際日本文化研究センター 教授。武士の家計簿』が有名で、映画にもなった。磯田さん自身が読み込んだ「金沢藩士猪山家文書」という武家文書の中の記述にそって、その様子を小説にしたもの。他の著書も、マニアックなものが多くて、楽しい。彼自身が、古書も自分で読みこなし、全国の原本資料を研究しているので、他の著書からの知識の横流しではなく、彼の解釈で色々と述べられているのが彼の著書の魅力だと思う。

 

表紙裏の説明には、
”忍者の子孫の訪ね歩き、東海道新幹線の車窓から関ヶ原合戦追体験する方法を編み出し、 龍馬暗殺の黒幕を探る。著者は全国をめぐって埋もれた古文書を次々発掘。 そこから 「本物の歴史像」を書き出し、その魅力を伝えてくれる。同時に、歴史は厳しいものでもある。地震史研究にも取り組む著者は、公家の日記などから、現代社会への警笛を鳴らす。 歴史を存分に楽しみ、現代に活かせる「 歴史通」になりたいあなたへ。

 

感想。
本当に、面白かった。歴史が楽しめるようになるかも?壮大な物語なんだから、楽しめないわけがない。東海道新幹線の愉しみ方も、フフフ、って笑える。関ケ原の戦いに参加しているつもりで車窓から眺めるらしい。
本書にでて来るのは、忍者が活躍していた戦国時代から、江戸時代末期。そして、2011年の震災を機に、日本の震災史についても研究を始めたようで、震災の歴史。日本史という意味では、比較的新しいところなので、「現代」に通じるところもある。南海トラフ地震についても、過去の資料から起こりえる被害を予測し、東海道新幹線の「津波対策」は早急にするべきではないのか、という提言も盛り込まれている。

 

目次
第1章 忍者の実像を探る
第2章 歴史と出会う
第3章 先人に驚く
第4章 震災の歴史に学ぶ
第5章 戦国の声を聞く

 

第1章では、忍者人ついて。忍者のことを調べようと思ったけれど、忍者は忍ぶ者なので記録がほとんど残っていない。そんな困難な状況の中、自分の足で子孫の人々の元を訪れ、そこから数珠つなぎのように辿りついた資料から読み込んだことが述べられている。
忍者といえば、伊賀と甲賀岡山藩の忍者の多くは、伊賀の出身であることがわかり、伊賀は自分の出身地(今の三重県)を離れてあちこちで仕事をした。主君を変えるたびに名字をかえているので、なかなか歴史をたどるのが難しいらしい。甲賀といえば、今の滋賀県甲賀は、一人の君主に仕えるタイプだったようだ。
忍者はどれくらい危険だったのか、と死亡率を調べてみているが、戦国の世だと、忍者ではなくてもたくさん死んでいるのでよくわからない、、とか。結論がでなくても、その調査のプロセスが述べられているので面白い。
ついでに、暗殺のための毒についても調べている。毒になる植物の記録などが残っているそうだ。ついでに、その毒でどうやって人を殺すか、、、まで。なんでも、暗殺にはトリカブトが適しているとか。何故なら、心臓発作が脳出血に似た感じで人が死ぬそうだ。ひゃぁ、恐ろしや。そういえば、昔、トリカブト殺人事件ってあったなぁ。。。正倉院宝物として記録のある強毒性アルカロイド「冶葛(やかつ)」は、32斤(7キロ以上)あったそうだが、度々出庫された記録があって、いまでは390グラムしか残っていないそうだ。
さて、だれがいつ使ったのか?!?! 
”我々の知らない闇の歴史がきっとある”ってさ。ほんと、知らぬが仏。。。

 

第2章では、『武士の家計簿』を書くに至った古文書発見の話と、当時の武士の暮らしぶりについて。『武士の家計簿』を書いた後、家計簿に記載のあった甲冑が実際にみつかったのだそうだ。家計簿までつけていた猪山家。流石、物持ちがよかったということか。で、甲冑の話しから兜について。武士はちょんまげにするために、「月代(さかやき)」といって、てっぺんをハゲちょびんにしている。これは、兜をかぶったときに蒸れないようにするため。でもって、月代は、なんと剃るのではなく、木製の毛抜きで引き抜いたのだと。。。。。ひゃぁ~~~痛そう。『慶長見聞集』によれば、「黒血流れて物すさまじ」と。。。異様だよな・・・。
異様なはなしから、怪談の話へ。どこの藩でも怪談集はあるのだが、藩風が厳しいところでは流布させにくく、加賀・岡山・徳島・松江・伊予松山のなどは藩風が「ゆるく」ておだやかことがあり、怪談をまとめた書物が多いのだとか。なかでも加賀周辺の北陸筋は怪談集の宝庫とのことで、泉鏡花が生れたのもこの土地だそうだ。知らなかった。私は、泉鏡花のことは、英語の勉強中に知った。怪談『天守物語』などは、英語でも読める。お話としても面白いし、単純な話しなので英語の勉強にもちょうどいい。
 怪談の不気味さから、今度は、暗殺、天誅の話に。横井小楠(よこいしょうなん)が暗殺されたことに関する古文書をみつけたのだそうだ。横井小楠は、現在、日経新聞朝刊の連載小説『陥穽(かんせい) 陸奥宗光の青春』のなかでも勝海舟とならぶ重要人物としてでてくる。小説の中ではまだ殺されてないんだけど、、そうか、殺されちゃうんだ。歴史を知らなかった。

古美術作品の話で、幕末の蓮月という陶芸家がでてきた。絶世の美女だったけれど、男が煩わしいので33歳で尼になっちゃったという人。自詠の和歌を刻んだ陶器「蓮月焼き」がたいそう高価らしいが、贋作も多いのだと。蓮月自身が、偽物でもうることで生活できる人がいるならいいじゃないか、と贋作が出回ることも許していたそうだ。そこで、焼成依頼書がでてきて、「大きびしょ12,小きびしょ53・・・・」など。「きびしょ」って、川端康成の『女であること』くらいしか、見かけることがなかったけど、江戸時代には一般語だったのね。

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また、著者が古文書を捜して全国を行脚していたとき、頼山陽(らいさんよう)」の書状らしきものにであってドキドキしたという話。実際には、ちがっていそうだが。頼山陽って、しらなかったのだが、頼山陽徳富蘇峰司馬遼太郎というのが、著者にとっては国民歴史意識への最大影響者だそうだ。本当の頼山陽の書なら、「掛け軸一本で家が買える」くらいの価値とのこと。

 

第3章では、現代にもつながるような、日本の習わしの数々について。今につながマニュアル文化は、岩村藩で顕著だった。岩村藩家老の子が佐藤一斎。Megurecaでも時々書いている『「言志四録」(三) 言志晩録』の著者だ。一斎が、そんな規則好きな岩村藩の出身だったとは、知らなかった。ついでに、小泉純一郎元総理が田中真紀子外務大臣におくった「重職心得箇条」という大臣マニュアルは、佐藤一斎がかいたものだったそうだ。ちょっと、笑ってしまった・・・。きっと、読まなかったんだな・・・・。

マニュアルについて著者は、
”マニュアルは、その型を破ってさらに上野階級に進むためのものと心得たい。”と。
守破離の一歩目だね。

でもって、福沢諭吉の『学問のすすめ』についても、先人の知恵として紹介されている。
諭吉の
「唯文字を読むのみを以て学問とするは、大なる心得違いなり。」
「学者何を目的として学問に従事するや」
「今の学者たる者は決して尋常学校の教育を以て満足すべからず」
などなど。。。。
なかでも、
「学者には一人で日本国を維持する気概が要る」という言葉に、著者は心打たれたらしい。
磯田さんの古文書探求は、まさに、気概の塊で、頼もしい。

 

第4章の震災の話の中で、「疾風に勁草を知る」という言葉が引用されている。危機の時にこそ、その真価が見える。強風が吹くとたいていの草は弱弱しくなびくが、そのなかに数本、ピンと立っている勁い草が見える。大事が起きた時、勁草でいられる人こそが指導者となるべきなのだ、と。2011年3月11日、学歴エリートは勁草ではないことが白日の下に。。。。


第5章では、城の話がでてくる。犬山城が大好きだということ。犬山城は国宝となっている城の中でも古いほうだ。古い天守閣は、一階が長方形ではなく多角形で、色が黒い、という特徴がある。

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犬山城、まだ行ったことがない。。。やっぱり、行かなきゃ!!って思った。

 

出てくる時代は、忍者・合戦・幕末で、話題が広く広がるので、読んでいて楽しく、読みやすい。まさに、歴史を愉しむために、ちょっと頭の片隅にいれておくと楽しくなるような知識満載。

こういう歴史の授業だったら、学生のころから歴史好きになれたかもな、って思う。

 

なかなか、楽しい一冊。

読書は、楽しい!