『世界の辺境とハードボイルド室町時代』 by 高野秀行、清水克行

世界の辺境とハードボイルド室町時代
高野秀行
清水克行
集英社インターナショナル
2015年8月31日 第一刷発行
2015年9月19日 第二刷発行

 

友人が読んでいて、すごく面白い!といっていたので、図書館で借りて読んでみた。室町時代は、私本太平記をよんで、その始まりを知り、少し理解が進んだ気がするし、チョット楽しめるかも、と思って。

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表紙の絵も、室町時代の騎馬隊か?とおもいきや、馬の後ろ脚はバイクに合体したり、軽トラに足軽が乗っていたりして、なかなか秀逸。

 

表紙の裏には、
現代ソマリランドと室町日本、かぶりすぎ! 
人々の心の動きから法体系まで、こんなにも似ている社会が時空を超えて存在したとは!
その驚きからノンフィクション作家と歴史家が、世界の辺境と日本史を徹底比較。 辺境を知れば 日本史の謎が、日本史を知れば辺境の謎が解けてきた・・・・。”
とある。

 

本書は、高野さんと清水さんの対談。

 

高野秀行さんは、1966年、東京生まれ。ノンフィクション作家。早稲田大学探検部当時執筆した『幻獣ムベンベを追え』で デビュー。タイ 国立チェンマイ大学日本語科で講師を務めた後、ノンフィクション作家に。冒険家。モットーは、「誰も行かないところに行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書く。」とのこと。本書を読んでいて、様々な国の体験談がでてきて、もしかしてこの人、、、と思ったら、やっぱりそうだった。『アヘン王国潜入記』の著者。これも知人に薦められて読んだのだけれど、ミャンマーのアヘン製造地域に潜入し、自分もアヘン中毒になりつつルポを続けたという、とんでもなく、、、怖ろしくも、面白い本だった。本当に、身体をはって、誰も行かないところにいって、誰もやらないことをやられている方。

 

清水克行さんは、1971年、東京生まれ。明治大学商学部教授。専門は日本中世史。大学の授業は毎年大講義室に400人超えの受講生が殺到する人気。NHK 「タイムスクープハンター」など 歴史番組の時代考証も担当。清水さんの著書は、これまで読んだことない、、かなぁ…と思う。

そんな二人が、室町時代と、現代のソマリランドの類似性に気づいて、おおいに盛りあがっちゃった!って感じで対談が進む。

 

目次
はじめに
第1章  かぶりすぎている 室町時代とソマリ社会
第2章 未来に向かってバックせよ!
第3章  伊達政宗のイタい恋
第4章 独裁者は平和がお好き
第5章  異端のふたりにできること
第6章  むしろ 特殊な現代日本

 

感想。
面白い!
わははは!ほっほっほ!って、本当にそうやって笑いたくなるような、楽しい対談。ふざけていない。真面目に、本当に、室町時代と現代のアフリカの国文化が、かぶりすぎる!!カオスな世の中だと、人々は専制を求めるようになり、それが、日本の室町時代織田信長の出現となり、ソマリ社会ではイスラム教の拡がりとなった。

なるほどなるほど、と、まさに膝を打ちたくなる。

 

ソマリアで市民の虐殺が起きた原因と、応仁の乱で京都がめちゃくちゃに破壊されつくされたのは、共通点があるのだという。ソマリアでは雑兵が、応仁の乱では足軽が、どちらも国に対するたいした忠誠心もなく、都がどうなるかより、今生きのびることを優先した。誰と誰の戦いなのかもわからなくて、自分がどちらの味方なのかもよくわからないような人たちが都を破壊しつくした。足軽が戦闘に加わったから、京都はあそこまで破壊されつくされた。ごった返しの混乱。そして、そのような戦は、だれかが完全制圧するまで、戦いの場が移り変わることが無い。その結果が、都の廃墟。

また中央が乱れれば、地方も乱れて、戦争の構図がさらに複雑になっていく。それは、ソマリアでも応仁の乱でも同じだったのだ。

なるほどぉ。。。。である。

 

他にも気になったことを覚書。

・日本は記録に残す文化があって、なんでもかんでも文字で残っている。おそらく、中華文明圏の影響で漢字が伝わり、でも大陸とそれなりの距離があったから仮名文字も生まれ、独自に「書き残す文化」がひろがったのではないか。
 アジアの他の国では、「たぶんそうだとおもう」という結構いい加減な根拠に基づいて、歴史博物館的なものができていたりする。事例として、タイ料理は、いつからどうやって始まったのか、まったく不明だとのこと。日本だと、推論であれば、「・・・と考えられている」という説明書きがつくところだけれど、タイでは適当に断定されてしまう。

確かに、タイ料理って、中華に近い気もするけれど、ヨーロッパ的なものもあるし、ハーブ使いは南国的な感じもある。バンコクにある「ブルーエレファント」という有名タイ料理屋さんは、実は、コペンハーゲンからの逆輸入といわれている。めっちゃ、オーセンティックタイ料理、が出てくるのだけれど、そもそも、なにがタイ料理の本物か、誰も知らない・・・。けど、ブルーエレファントは、バンコクのお薦めタイ料理屋さんの一つ。ついでに、在タイ中、私は、ブルーエレファントの料理教室にかよっていた。

 

織田信長は、正義とか公平をすごく重んじる。それは、イスラム教徒も似ている。盗みを働いたら手を切るとか、殺すとか、やることがはっきりしている。
たしかに、恵林寺比叡山も、、、信長は殺しまくった。恵林寺の快川和尚に「心頭滅却すれば火もまた涼し」といわしめた。どこに正義があったのかわからないけど・・・。イスラム過激派と似ている、ともいえる。ひゃー、怖い。
ま、イスラム教徒、過激派を一緒にしてはいけないけれど・・・。

 

・日本の天下統一は、外圧があったからこそ達成された。かつ、農耕文化がピラミッド型の階級社会になりやすかった。ソマリは農耕文化が発達せず、統一もされなかった。

 

・江戸時代、飢饉で人が死ぬほどにダメージをうけたのは、モノカルチャーだったから。米がだめなら、全滅。雑穀をつくっていればまだよかった。東北は、江戸の醤油文化が花開いたことで、雑穀をつくらずに大豆づくりに走ってしまった。その名残が、仙台の「ずんだもち」、だそうだ。へぇ、、、なるほど。青臭くて、、、そんなに好きじゃないけど、、、大豆が、枝豆が、、、あまっちゃったから、つくったってことか。どうせ、餅にするなら、私は、小豆のあんころ餅の方が好きだ・・・。

 

・ある国のイスラム度をチェックするには、街に出て、あごひげを生やしている男の人がどれくらいいるかをみればいい。あごひげは、ごりごりのイスラム主義の象徴。
 そういわれると、インドネシアは、イスラムの国だけれどあごひげのひとは、そう多くない。ごりごりのイスラム主義ではない、、、といえば、そういう気がする。会社では、男性も女性も、いっしょに仕事もしていたし。

 

同性愛は、戦国の文化。同性愛は、男らしさの表れだった。女といちゃいちゃしているより、男同士のほうが、かっこいい、ってことだったらしい。まぁ、戦場に女はよべないし、と。ふむ・・・。なるほど。
まぁ、ギリシャ、ローマの時代も、恋といえば、オジサンが若い男の子を連れて歩くことだった。男同士がいけてる、、という時代もあったのだ。いや、じつは、今でもそうなのか?!?!
 そして、伊達政宗が書いた男へのラブレターが今でも残っているらしい。イケメンは、いつの時代も人気者らしい。

 

武田の騎馬隊は、実は存在しなかった
 馬は経済的な価値が高いので、移動にはつかったけれど、戦いにはつかわなかったのだ、と。長篠の戦いでも、織田の鉄砲隊と武田の騎馬隊は激突していない。馬に乗っていると、人よりも背がたかくなっちゃうから、狙われやすいし、と。。私が大将でーす!って言ってあるいているようなものだと。

 

義経や、木曽義仲は、地方武士だったので、都にでたときに、身の処し方がわからなかった。都にいくと、朝廷に吸い寄せられちゃう。だから、頼朝は、都にいきたがらなかった。

 

パクストクガワーナは、幻想。武士なんて、人殺しの道具を腰に差している人が政治をやっていた。その体制は、軍事政権下のミャンマーとかわらない。
なるほど!!たしかに・・・。
そして、『逝きし世の面影』が引用されていた。あれで江戸時代はよかったっていう人は、軍事政権ミャンマーを肯定しなきゃいけない、って。
なるほど!!

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・外国でその町に溶け込もうとするときの極意(高野さん)
親し気に寄ってくる人には要注意。そういう人ほど、地元でちょっと浮いた存在だから、外の人に対していい顔をする。
あ、、、ちょっとわかる気がする・・・。
タイに出向中、日本人にうけのいいタイ人は、タイ人に人気がなかったりして、、、。

 

一流の研究者はストーリーテラー。と、高野さんが、高井研さんを引用して。話が上手いから、研究成果を一般の人にもわかりやすく伝えられる。この著者のお二人も、十分素晴らしいストーリーテラーと思う。
ちなみに、高井さんは、宇宙生物学者、地球生物学者。著書に『微生物ハンター深海を行く』など。ちょっと、気になる。いつか、読んでみよう。

 

・日本は、中華文明の辺境。内田樹さんの『日本辺境論』を引用。
うん、たしかにね。

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・ソマリ人は、みんながみんな銃をぶっぱなしているわけではない。ソマリにはソマリの文化があり、ソマリの人はソマリ人であることを誇りに思っている。
うん、それはそうだ。みんなそうだ。日本人だって、地震があって、原発事故がおきたって、日本を誇りに思って、日本に住んでいる、のだと思う。

「そんなところに住むなんて信じられない」といった言葉ほど、失礼な言葉はない。

 

なかなか、面白かった。日本の歴史を振り返るっていう意味での勉強にもなる。高野さんの冒険話にワクワク。現代の辺境には冒険にいくことはできるけれど、室町時代に冒険にいくことはできないから、なおさら想像がふくらんで楽しい。

 

文明や文化、社会の発展って、あるていど法則があるのかな、と思う。だから、歴史に学ぶって大事なんだろう。

うん、楽しい本だった。

読書は、楽しい。