権力犯罪
黒田清
大谷昭宏
旬報社
2000年12月23日 初版第1刷発行
『リーダーの言葉』で紹介されていた黒田さんの著書。
気になったので、図書館で借りて読んでみた。
黒田さんは、1931年大阪生まれ。ジャーナリスト。2007年7月23日、69歳ですい臓がんのために逝去。
大谷昭宏さんは、黒田さんとともに読売新聞を退社したジャーナリスト。1945年生まれ。
黒田さんの意思を継いで、大谷さんが出版につなげた一冊。本書の「序」は黒田さんが執筆。黒田さんは途中で逝去とのこと。
目次
はじめに 権力犯罪の「系譜」から見えてくるもの 大谷昭宏
序 権力犯罪の読み方 黒田清
第一部 権力犯罪の系譜
1 政・官・財癒着のはじまり
隠退蔵物資事件(辻嘉六つじかろく事件)
昭和電工疑獄事件
造船疑獄事件
吹原産業事件
2 政・官・財癒着の完成
日本通運事件
ロッキード事件
KDD (国際電)事件
3 バブル経済下、マネー ばらまく新興企業
リクルート事件
佐川急便事件
4 バブル崩壊で噴出、金融不正事件
イトマン事件
野村證券損失補てん事件
金丸信脱税・ゼネコン汚職事件
東京協和・安全信組事件
5 露呈する官僚組織の腐敗
岡光厚生次官特養ホーム事件
大蔵・日銀接待事件
神奈川県警事件
第二部 権料k犯罪ファイル
おわりに
【写真提供】朝日新聞社/毎日新聞社
感想。
なんとまぁ、、、、あきれたというか、情けないというか、、、こうして権力者の犯罪、犯罪疑惑を並べると、悲しくなる。日本人はそこまで落ちたか?!
ここに出てくる犯罪は、1945年以降の権力者(政治家、官僚、裏権力者)の犯罪であり、事件の名前を聞けば、私でもなんとなく聞いたことがある。政治家の名前も田中角栄、鳩山一郎、竹下登、金丸信など、顔が思い浮かぶ人たち。本は、ほぼ時代を追って事件が書かれているので、そうか、後に首相になった人たちも汚職疑惑のまったくない人なんていないのではないのか?と、順を追って人の経歴が見えてくる。
始まりは、戦後処理のどさくさにまぎれた右翼団体闇のフィクサーが 内閣参与嘱託の委員に選ばれたこと。隠退蔵物資事件は、戦時中の日本の物資をGHQに没収されないように政治家も右翼団体といっしょになって隠蔽に走ったといっていい。隠退蔵物資は、旧陸海軍が軍需工場が敗戦時に保有していた物資で、敗戦後にその存在が秘匿されていた。ある意味、「日本のため」を思っての汚職だったのかもしれない。ただし、隠蔽された物資が必ずしも庶民の元に届いたわけではないところが、やはり汚職の始まり。
ロッキード事件で田中角栄が逮捕されたのは、当時小学生だった私でも記憶にある。1977年にロッキード裁判が始まり、田中角栄の犯罪が確定したのは19年後の1996年だったそうだ。途中、93年に田中角栄は他界している。アメリカから発覚したロッキード社の世界各国への賄賂バラマキ事件だが、政界人が逮捕されたのは日本だけとのこと。それも、田中角栄が石油に絡む日本の介入を計画していたために嵌められたとの見方もあるらしい。
リクルート事件や、佐川急便事件になると、私も社会人になったころなので事件の詳細もある程度記憶にある。でも、バブルに浮かれた日本、そして、崩壊してドタバタの日本だったので、みんな自分のことに夢中で、政治の世界の汚職なんて、ある意味他人ごとだったように思う。
本書によれば、保守政党と右翼団体との蜜月は戦後から始まり、当初は裏世界での金の行き来だった。それが、バブルになってみんなが金持ちになったことで、裏社会も「会社」の顔をして表社会に出てくるようになった。バブルの間、金で親密度をあげた権力と裏社会は、バブルが崩壊すると、当時のネタによる「ゆすり」「たかり」で、権力者を裏社会と離れられなくさせた。
そして、野村證券損失補てん事件、ゼネコン汚職事件、とバブルの浮足だった世界から泥沼の世界へ。金融不正事件では大蔵省の「ノーパンしゃぶしゃぶ接待疑惑」や、信用組合の私物化のような無担保融資とその後の組合破綻。その後は、「官官接待」と呼ばれる、公務員の公務員への賄賂、接待が社会問題となっていく。
バブル最中は、検察庁の検察首脳会議メンバーが全員京大卒、という異常な体制もあったとのこと。ちょっと反対意見をいえば、はい、左遷…。学閥は間違った道に人を走らせることもある。
う~ん、あったなぁ、、、そういう時代、という感じ。
今は、国公立大学の教授たちも、企業や生徒からの贈り物をもらうと接待になるからといってうけとれない。なんか、いき過ぎじゃないのか?とおもうこともある。
公務員も、事件を起こした企業の従業員も、ある一部の人が不道徳なことをしたことによって、組織全体のイメージダウンのダメージを一緒にうける。不祥事を続ける会社というのは、やはり会社の体質に問題があるのだろうと思うけれど、過去の過ちでいつまでも白い目で見られるのもかわいそうだよな、と思う。
不正が起こりやすい社会というのがある。国や地方の許認可が多い業界や公共事業に関わる領域は、賄賂疑惑は起きやすい。最たる例が、建設業界や運送業界。でも、当然清廉潔白な事業を展開している会社もあれば、不正をした会社であっても全員が不正をしているわけではない。それって、ロシア人が全員ウクライナ人を殺戮しているわけではない、ということとちょっと相似。
一人じゃないから、不正をしちゃうのではないだろうか、とも思う。「だれかのため」になるとおもって働く犯罪。それが不正なのだろう。それを権力者が犯したとき、正しく裁かれずに無罪放免になるというのが、権力犯罪の恐ろしさ。
「権力犯罪は、権力が起こす犯罪ではなく、犯罪によって権力がつくられたのではないのか?」とまで言っている。
右翼の指示による選挙当選。選挙の買収。う~ん、道徳心はどこへいってしまったのか?
富や権力が人間を堕落させるというのは、やはり正しいのか?
メディアの報道の仕方にも問題がないわけではない。会社の方針との対立があって、黒田さんと大谷さんは読売新聞を退職している。直近ではオフレコ取材を記事にするという、報道側の紳士協定破りも。権力者だけでなく、ジャーナリストたちの道徳も問われる気がする。ちなみに、朝日新聞は素晴らしいすっぱ抜きをしておきながら、「サンゴ事件」でその功績を台無しにした過去もある、と。
清く、正しく、美しく生きたいものだ。
「信頼」は、お金では買えない。
