『NOISE  組織はなぜ判断を誤るのか?』 by ダニエル・カーネマンら

NOISE(上)(下)
組織はなぜ判断を誤るのか?
ダニエル・カーネマン、オリヴィエ・シボニー、キャス・R・サンスティー
早川書房
2021年12月15日初版発行 
原題:NOISE A Flow in Human Judgment (2021)


ダニエル・カーネマンの本だから読んでみた。買おうかとも思ったけれど、図書館で予約していたら、意外と早く回ってきた。

著者のダニエル・カーネマンは1934年生まれ。認知心理学者。プリンストン大学名誉教授。専門は意思決定論及び行動経済学。2002年にはノーベル経済学賞を受賞。著書に『ダニエルカーネマン 心理と経済を語る』『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか』など。

本書は、あと、オリヴィエ・シボニー、キャス・R・サンスティーンとの共著。

オリヴィエ・シボニーは、フランス HEC 経営大学院教授。25年にわたってパリとニューヨークでマッキンゼーアンドカンパニーのシニアパートナーを務めた人。

 キャス・R・サンスティーンは、1954年生まれ。ハーバード大学ロースクール教授。専門は憲法法哲学行動経済学など多岐に及ぶ。オバマ政権では行政管理局の情報政策及び規制政策担当官を務め、またバイデン政権では国土安全保障省の上級参事官に任命された。リチャード・セイラーとの共著、『実践行動経済学』は全米ベストセラーを記録。


私は、もともと行動経済学関係の本が好きで色々読む。リチャード・セイラーも、好きだ。ダニエル・カーネマンのことは、『ファスト&スロー』を読んで初めて知った。面白かった。人々が判断するときには、速い判断と遅い判断があって、それをシステム1とシステム2と言っている本。直感と熟考ってかんじ?
若干、説教臭い?!ところもあるけれど、面白い。痛いとこついてくるなぁ、、って感じ。本書も、説教されている感じがする。それは、おっしゃる通り!!と、痛いところを突かれるから。でも、それが面白い!1934年生まれというのだから、88歳?!そりゃ、説教していただけてありがたい!


本書は、サブタイトルが『組織はなぜ判断を誤るのか?』とあり、世の中の様々な組織でたくさんの誤った判断がなされていることを放置してはいけない、という使命感で書かれたような感じ。
タイトルのNOISEというのは、まさに、判断を誤らせる原因となっているエラー
本書では、エラーにはノイズとバイアスがあり、ノイズの存在に気づくこと、そしてそれを減らすことが大事、ということが語られる。
バイアスは、ある意味分かりやすいし、「偏見をなくす」という社会の動きは表舞台にもでてくる。でも、ノイズは、まずもって存在を見出せなければ、対処のしようがない
ノイズを計測して、正すべき手段を実行せよ、というのが全体ストーリ。

 

表紙の裏には
(上)
行動経済学創始者カーネマンらが提言する新しい意思決定論
組織やシステム内で生じる判断のばらつき『ノイズ』
個人のバイアス認知の偏りと比べて見過ごされがちだが、
時に甚大な悪影響を及ぼす。
保険料の見積もりや企業の人事評価、医師の診断や裁判の判決など、均一の判断を下すことが前提とされる組織においてノイズが生じるのはなぜか
そしてノイズを減らすために私たちができることは何か?
生産性の向上と社会的公平性の実現に向けて行動経済学の第一人者たちが真に合理的な組織のあり方を描く。」

(下)
「本書に登場する事例
・採用試験で採用時の評価が A さん> B さんであったとしても、数年後の評価が A さん >B さんになる確率は59%にすぎない。
・ある保険会社で二人の専門職に個別に見積もりを依頼し。二人の金額の差がどれくらいあるかを調査したところ55%もの開きがあった。
・前科のない二人が偽造小切手を現金化したため有罪となった。搾取した金額は一人は58.40ドル、もう一人は35.20ドル。ところが量刑は、前者が懲役15年、後者が30日だった。
難民認定の許可は審査官によって異なることが多く、ある審査官は申請の5%しか許可しないが、別の審査官は88%許可するという例があった。
・二人の精神科医が州立病院の患者を別々に診断したところ、患者の精神疾患の病名の一致度は50%に過ぎなかった。」


目次(上:序章~第4部、下:第4部~終章)
序章 2種類のエラー
第1部 ノイズを探せ
第2部 ノイズを測るものさしは?
第3部 予測的判断のノイズ 
第4部 ノイズはなぜ起きるのか
第5部 より良い判断のために
第6部 ノイズの最適水準
終章 ノイズの少ない世界へ


序章 2種類のエラーでは、先に述べたようにエラーには二つの種類があり一つはノイズもう一つはバイアス偏見という話。
分かりやすい例で説明してくれている。


複数のグループに射撃をしてもらったとする。その結果、中央の的に対して全ての弾が当たっていればノイズもバイアスもない。バイアスがある状態というのは、 撃った球が、的の中心からずれたところ一か所に集中している状態。ノイズがある状態というのは、弾が的から外れてあちこちに散らばっている状態。
バイアスは、偏っていることが分かりやすい。一方で、ノイズは、平均してみてしまえば気が付きにくいということ。
2つのクラスのテストの平均点が、ともに70点の時に、65~75点の生徒がいたのか、0~100点の生徒がいたのかで、クラスの特徴はことなるはずだけれど、平均点で見てしまうと気が付けない。
データの、ばらつきを示す指標は大事、ということだ。だから、最小二乗法のような統計の数字が重要になる。

そして、アメリカの本らしく、沢山の事例が出てくる。
ノイズは、どこでも見られるという。
病院の診断現場、子供の保護、天気予報、難民申請、人事評定、保釈審査、科学捜査、特許審査、、あげればきりがないほど。


自分の評価が、ノイズによって公平に下されていなかったとしたら、、、。多分、どこの会社でも起きているのではないだろうか。人事評価が公平だなんて、ありえないことだから、いちいち気にしていられない、、と、ノイズを無視して、いつまでもノイズもバイアスもたっぷりな人事評価を続ける、、、、。って、アリがちだなぁと思うし、そこに甘んじてしまうのも人間だよなぁ、、、とも思ってしまう。


ノイズにも、いくつかの種類がある。
システムノイズとは、同じ症例・事例に、人によって異なる判断をくだすこと。どの医者にかかるかで病名診断が異なるようなこと。

そして、システムノイズは、レベルノイズパターンノイズで構成される。
レベルノイズとは、人によってレベルが異なることによるノイズ。判断者ごとの判断の平均的なばらつき。厳しいとか優しいとか。強気と弱気とか。
パターンノイズとは、固有の価値観によって生じるノイズ。再犯には、厳しくしてしまうとか。子供のいる母親には甘くなってしまうとか。また、一過性の原因に起因する機会ノイズもパターンノイズに含まれる。よく言われる午前中の手術より午後の手術の方が成功率が低いとか、昼休み直前の判断は間違えがちだとか。天気が悪い日や疲れているときは、判断が鈍りやすいとか。

また、集団になるとそのノイズが増幅される「カスケード効果」もあるという。怖い怖い。集団で、そうだそうだ!と間違った方向へ行ってしまう。人事評価でも、結構起きているような気がする、、、。直属の上司がいうんだからそうだよな、、、、、って、一人の意見にみんなが同意してしまう。オブジェクションなしは、同意となる恐ろしさ。空気の力?!

ノイズは、バイアスよりも目立ちにくいが、エラーを起こす大きなプレイヤーである。だれも、自分にノイズが生じているとは思っていない。判事だって、検査官だって、正しい判断をしているつもりだ。人は、正しく理解し、正しく判断したいとおもっているし、自分で判断したと思いたいものだという。そして、「理解」して「判断」するために、なんらかの「因果関係」を見出そうとする。でも、何かが起きた時の本当の理由ではなくても、後付けの「因果関係」に納得してしまうと、正しいと思ってしまう。
なんとなく、正しそう。結論バイアス
ヒューリスティクスの罠にはまる。なんとなく正しそう、でよいことにしてしまう。

人は、他人のバイアスには気が付くけれど、自分のバイアスには気が付かないものだと。

たしかに、そうかも。。。

ノイズもバイアスも、いつでもどこでも起こる危険がいっぱい。著者らは、そういったエラーがあまりに見過ごされすぎていて、本当はもっとノイズやバイアスの低減に取り組むべきだ、として様々な提案をしている。

 

では、ノイズやバイアスを無くし、より良い判断をするために、何をしたらいいのか?
当たり前だが、良い判断を下せる人を選ぶ。スキル・専門性・知性・認知スタイルなどがその判断をするにふさわしい人。それはそうだろう。だから、判事や放射線技師など、ちゃんと資格試験がある。
で、それでも、エラーが起こる。
だから、バイアスとノイズを減らす必要がある。

バイアスを減らすには、判断してから事後修正する方法と、判断する前にバイアスの可能性を取り除く方法があるが、加えて、「意思決定プロセス・オブザーバー」を置くことをすすめている。予め、チェックリストをつくって、オブザーバーが議論の進行を見守りながらチェックする。


チェックリストの一例が付録についている。ちょっと、かいつまんで覚書。

1 判断に臨む姿勢
(a) 置き換え:重要な問題を簡単な問題に置き換えてないか。
(b) 統計的視点:絶対的判断だけでなく相対的判断も試みているか。
(c) 多様性:誰かの意見に偏っていないか。


2 予断と時期尚早な結論
(a) 議論開始前の予断:ある結論に至ると得をする人はいないか。予定調和に傾いてないか。
(b) 時期尚早な結論、過剰な一貫性:都合の悪い情報、不快な意見を無視して結論にいたってないか。


3 情報処理
(a) 入手可能性、顕著性:最近起きたとか、個人的に重要とかいったことに過剰に重視してないか。
(b) 情報の信頼性:個人的な体験、エピソードに過度に依存していないか。情報の裏付けをとったか。
(c) アンカリング:正確性や信頼性の疑わしい数字に左右されていないか。
(d) 非回帰的予測:平均への回帰を無視していないか。

 

4 決定
(a) 計画の錯誤:予測を検証しているか。不確実な数字に信頼区間をおいているか。
(b) 損失回避:慎重すぎていないか。
(c) 現在バイアス:短期的、長期的優先事項がバランスされているか。

 

そして、ノイズを減らすには、「判断ハイジーン」が推奨されている。ハイジーンとは、衛生管理のこと。手洗い励行で感染を防ぐように、判断するまえの事前対処、ということ。
その原則は次の6つ。

 

原則1:判断の目標は正確性であって自己表現ではない
  最初は、様々なアイディアがあって、多様性があってよいが、最終的に何かを判断、選択するときは、自己表現はノイズになるだけ。アルゴリズムかルールの導入の方がよい。

 

原則2:統計的視点を取り入れ統計的に考えるようにする
因果関係思考で、目の前のケースのみに着目しない。統計的視点をもつこと。

 

原則3:判断を構造化し独立したタスクに分解する
構造化するというのは、大きな問題を小さな部分問題に分割して考えること。のちに逆方向に統合する。細分化した項目を互いに独立して評価し、後に統合する。

 

原則4:早い段階で直感を働かせない
直感で、「これでよし」としてしまうと、判断者がそれ以上の検討をしなくなってしまう。


原則5:複数の判断者による独立した判断を統合する
カスケード効果や集団の二極化をさけるために、それぞれの個人は独立して判断し、後に統合する。

 

原則6:相対的な判断を行い相対的な尺度を使う
相対的判断の方が、絶対的判断よりノイズは小さくなる。

 

とまぁ、本書では、ノイズとバイアスの確認方法と対応方法や手順がこれでもかと細かく説明されている。これらを活用すると、組織として、よりノイズの少ない判断ができるようになるのかもしれない。


でも、実際には難しいのだろうなぁ、というのが率直な感想。

 

そもそも、ノイズがあることを認めるのが難しい。だから、ノイズを可視化して、それを認めることが重要だと本書の中でも繰り返されるのだが、それこそが難しいのだろう。


だって、これまでの裁判は、あらゆるノイズだらけでした、なんて裁判所が認めることは無いだろうし、、、、医療現場でも、あの治療はノイズでまちがっていました、なんてなかなか認めがたいだろう。
判断したがわだけでなく、された側だって、自分の判断はノイズによるものだった、なんて思いたくない。

なかなか、難しい指摘だなぁと思った。 

 

でも、組織として社会に対して何かの機能を果たすためには、ノイズもバイアスも、最小にするように努力するべきなのだろう。

理論はとてもよくわかる。

それでも、難しさを感じてしまう。

そんなところに、本書もお説教されているような、ちょっと、しゅん、、、となっちゃうような、、、そんな気持ちにさせられる。

でも、面白かった。

やっぱり、世の中、公平も公正もそんなに簡単には転がっていない。

努力するべし、ってことなんだろうな。

やれる範囲で、頑張ろう。

 

読書は楽しい。

 

 

『NOISE』(上)

『NOISE』(下)

 

『新しい世界の資源地図 』by ダニエル・ヤーギン (その2)

新しい世界の資源地図
エネルギー・気候変動・国家の衝突
ダニエル・ヤーギン 著
東洋経済新報社
2022年2月10日第1刷発行

 

目次
第1部 米国の新しい地図
第2部 ロシアの地図
第3部 中国の地図
第4部 中東の地図
第5部 自動車の地図
第6部 気候の地図 

 

その2。

昨日のアメリカ、ロシアの続き。

 

第3部は、中国。

アメリカと中国の2国だけで、世界のGDPの40%、軍事費50%。いまや中国は巨大な新興国であるのは間違いない。世界の工場としてだけでなく、消費国としても巨大だ。
2000年の自動車の国内販売数は、中国が190万台、アメリカ1730万台だったのが、2019年には、中国が2500万台、アメリカが1700万台と逆転した。
中国の巨大市場ぶりは、言うまでもないだろう。日本だって、中国人の爆買いでずいぶん潤ったはずだ。コロナ前まで、、、、。

今、中国の課題といえば、「南シナ海」。中国は、勝手に自国で世界地図を描いて、自国の教育に使用する。最初にそんな地図を作ったのは、中国で最も多大な影響力を持ち、英雄であり、尊敬されていた地理学者、白眉初。今も当時の地図が引き合いに出される。そして、中国人は子供の時から南シナ海は中国の海、と教えられている。
おそるべし、刷り込み。

 

2010年7月、ASEAN第17回地域フォーラムで、東南アジア諸国は中国の南シナ海に対する態度に、警戒心を高めていた。当時のヒラリー・クリントン国務長官は、東南アジア諸国に望まれるまでもなく、中国に対して強い姿勢で望むつもりだった。
そして、南シナ海を「核心的利益」と呼ぶ中国に対して、クリントンは、「自由なアクセス」は保たれるべきであり、アメリカの「国益にかかわる、と表現した。
これに、中国の楊外相は怒りにふるえた。その時に言った言葉が、今でも報道で引用されることがある。
中国は大国で、他の国々は小国です。これは事実です
つまり、小さい国がつべこべいってんじゃねーよ!って感じ。

会場はしー---ん。。。

この発言をうけて、主催国ベトナムの外相は、「お昼になりました。ランチにしましょう。」とかわした。

しかし、その時からずー--と、南シナ海の衝突はつづいたまま、、、ということだ。

 

中国がここまで経済成長を成し遂げられたことの裏に、「コンテナ輸送」の開発があった、という話が出てきた。
これは、目からうろこだった。
「コンテナ」、あの、ただの箱でしかない、コンテナだ。それが海上輸送革命をもたらした。
「コンテナ」を開発したのは、マルコム・マクラーレンというトラック運送会社を立ち上げたアメリカ人だった。ある時、トラックの中で港湾労働者がトラックに荷物を積み替えるのを待っていた。箱をひとつづつ、人が船からトラックに積み替えていたのだ。待ちくたびれた。その時、ふと、なんでトラックの車体ごと船にのせないんだ?!と思いついた。
そして、車両から切り離された「コンテナ」ごと船で運ぶ、というアイディアになった。

今では、船にコンテナが積まれている図に何の疑問も抱かないけれど、世界各国共通のコンテナが使われるようになって、海上輸送は飛躍的に効率があがったのだ。中国はその恩恵を存分に受けている。世界10大コンテナ港のうち、7つが中国にあるそうだ、、、。
恐るべし、中国。


2020年、コロナで中国の流通が動かなくなると、世界のサプライチェーンが止まった。中国が世界貿易において現在の地位を築けたのは、コンテナ船のおかげ。

いやぁ、これは、気が付かなかった。。。
面白い。

 

中国に関しては、アメリカとの貿易戦争の話も。レーガン大統領からオバマ大統領までは、中国とは協力を深めていきましょう、だったのが、トランプ大統領になって反転。それまでに、中国の台頭がアメリカにとって脅威になるほどに育っていたからであり、時代背景もあるけれど、トランプ大統領でなければ、G5をめぐるファーウェイの追い出しまではいかなかったかもしれない。
2018年のマイク・ペンス副大統領の発言をみても、中国は「米国の技術をごっそり盗みとっている」としている。

 

前にも引用したことがあるけれど、2021年のNational Security Commission on Artificial Intelligence(NSCAI)のfinal reportでは、はっきりとこのままでアメリカは中国に抜かれると言っている。

megureca.hatenablog.com


第4部は中東。これは、何度読んでも、何を読んでも、複雑すぎる、、、。石油、宗教、、、、。国だか宗教だか、宗派だか、、、この間まで敵国同士がいきなり手をくんだり、、、よくわからん・・・。そこに、ロシアもアメリカも、色々な形で介入するから、収拾がつかない、、、。加えて、石油価格の乱高下も各国に大きな影響を与えている。
そして、メインストーリーは、
ISISは、カリフ制をめざし、国民国家を認めない
サウジアラビアは、石油以外の収入源を模索し始め、宗教的規制を緩和し始めている。
ということか・・・・。
複雑すぎて、書ききれないので、以上。。。
あ、あとは、やっぱりイランの動き。

 

そして、第5部と第6部では、電気自動車と気候の話。
これまでの国を中心とした話からはちょっと毛色が違う。
でも、やはり、中心はエネルギー

 

電気自動車といえば、いまはイーロン・マスクのテスラ抜きには語れない。歴史を振り返ると、実は1900年代、ニューヨークではガソリン車よりはるかに多くの電気自動車が走っていた。トーマス・エジソンが、電気自動車の開発と普及に夢中だったのだ。でも、2つの事が電気自動車の普及を阻んだ。
一つは、フォード社の大量生産によるT型車の普及。もう一つはガソリン自動車に必要だったスターターの自動化。ガソリン車は、スターターが開発されるまでは、自分で車の前に立ってクランク棒を回してエンジンをかけていたので事故も多かった。それが不要になったので安全になった、ということ。
そして、すっかり忘れ去られた電気自動車が再び日の目を見るようになったのは、カリフォルニアから始まった排気ガスによるスモッグ問題排ガス規制が始まり、各社が排ガスの出ない車(少ない車)の開発をめざすようになる。
そして、テスラの時代へ。


電気自動車の最初の壁は、バッテリー。それは、リチウム電池の開発がすすんで、今では一回の充電で走行できる距離は200マイル、約320Kmまでに及んでいる。ただし、そのようなバッテリーの値段はまだまだ高価。2030年頃にはお手ごろ価格になるのではないか、というのがマサチューセッツ工科大学のみたてだそうだ。
そして、気候変動に対する懸念の高まりから環境負荷低減への意識が高まり、電気自動車に対する需要に追い風に。それが、現在の状況だ。
ついでに、一時盛り上がった、排ガスが管理された燃費のいいディーゼル車も、フォルクスワーゲンの「排ガス数値不正事件」で、下火になっている。

 

現在、世界で一番電気自動車やハイブリッドが普及しているのはノルウェー
ノルウェーは、石油や天然ガスの生産による収入が大きいが、自国の電力は、ほぼ安価な水力発電でまかなわれている。電気代が安くなるということだ。

中国は電気自動車の開発では出遅れているものの、リチウム電池の生産量はすでに世界の3/4になっている。
ここでも、中国なしには世界のバッテリーがまかなえない、、、という勢力図が出来ている。

電気自動車の次は、自動運転だ。一応、あらゆる企業が競い合うなか、自動運転の定義についてはコンセンサスがある。

レベル0から5までに6段階。

「自動運転化ナシ」がレベル0。

速度を一定に保つクルーズコントロール機能を持ち、ドライバーの監視下で自動でアクセルを制御するまでがレベル3。
レベル4は、「高度自動運転」で、ドライバーの監視なしに走行したり周囲の環境認識したりできる。ただし、走行できる場所は仮想の境界線のエリア内(空港内のみとか、大学構内のみとか)に限られる。
レベル5は、「完全自動運転」でありあらゆる条件下で全ての運転タスクを実行できる。

これらが満足できる技術の開発が必要なのは言うまでもないが、保険についても様々な課題がありそうだ。

車の使われ方も時代とともに変わってきた。所有より、シェアの時代だろう。あるいは、ウーバーのように自家用+業務。

 

私の希望を言えば、早く完全自動運転になってほしい。そうなったころには、「昔は人が運転していたんだよ」ってなって、「え~~~こわー-い!」ってなるだろう。
運転免許証なんて、過去の遺物だ。。。
いまでも、首都圏ではペーパードライバーだけど身分証明のために持っている、っていう人多いのではないんだろうか。
私がそうだ。昔は、運転が大好きで、マニュアル車にものっていたくらいだけど、いまじゃ、欲しいとも、運転したいとも思わなくなった。まずもって、運転するなら飲めないし。。。
MaaSで、快適な移動手段が提供される日を心待ちにしている。

そもそも、完全自動運転になったら、今の車の形である必要もないのだろう。
空気抵抗は低いほうがいいから、ある程度流線形になるのには違いないだろうけど。

デザインも色々出来そうで、楽しみ。

 

本書の中では、それでも電気自動車が市場シェアでガソリン車に追いつくにはかなりの時間がかかるだろう、と言われている。さて、どうなるかな。


第6部は、気候。しめくくり。パリ協定がいかに画期的な出来事だったかということ。そして、せっかくオバマさんが道を開いたのに、直後にトランプ大統領が破棄してしまったこと。でもって、バイデンさんは即日、パリ協定に復帰したこと。。。

2050年までに、カーボンニュートラルをめざす。昨年のCOP26でも、多くの国がそれぞれの誓いをたてた。
再生可能エネルギーを増やす。炭素回収をすすめる。この二本立て。
森林破壊を食い止めるというのも、炭素回収に貢献できること。にもかかわらず、昨年も山火事で多くの森が燃えつくしてしまった。。。なんてこった。

 

再生可能エネルギーで、古くからつかわれているのは太陽光発電風力発電。現在、太陽光発電が主流の電力に組み込まれたのは、ドイツの環境政策と中国の生産能力とが合わさったことによると言う。
ドイツはヨーロッパの中でも再生可能エネルギーの普及を早くから始めた。パネルの生産も技術大国としてすすんでいたのだが、今ではほぼ中国メーカー産になっているそうだ。

2010年から2018年の間で中国の太陽電池の生産能力は5倍に伸びた。それによって世界の需要を上回り、中国国内で太陽光パネルが余ることになった。そこで中国政府は太陽光パネルの国内市場の創出にも動いた
2013年中国はドイツを抜いて世界最大の太陽光パネルの市場になり2017年には世界史上の半分を占めるまでに成長した。

ここでも、中国なのだ。。。
中国は今世界の太陽光パネルのおよそ70%を生産している。 
そして、実は、風力発電も、世界の40%がアジアに設置されていて、その3/4が中国。。。

太陽や風力による発電の一番の課題は、発電が断続的であること。電気は一定の出力で送電しないと、停電の恐れがある。発電量の増減にあわせて、過不足を補完して全体の送電量を一定にするための管理可能な発電との組み合わせが必要である。故に、送電網も複雑になる。
電気は、発電だけでなく、送電網の管理が一層重要になる。

スタンドアローンでまかなうなら問題はないけれど、やっぱり相互に補完し合える送電網につながってこその再生エネルギーなのだ。

他にも、水素発電、二酸化炭素吸収量が多い「スーパー植物」、さまざまな開発が進んでいる。

個人的には、やっぱり、日本は、核融合発電、頑張ってもらいたい気がする。

2022年4月29日の日経新聞に、世界で核融合発電への投資が高まりつつある、という記事が出ていた。2050年の実用化といわれていたものから、2030年代の実用化に向けて弾みがついているという。日本もがんばれ~~~!

 

地球温暖化の抑止として化石燃料がやり玉にあげられているが、化石燃料は燃やされているだけではない。プラスチックをはじめ、有機溶剤など、多くの産業で原料としても使われている。
風力や太陽光、電気自動車の普及で、鉄、コンクリート、プラスチックの需要は増え続ける。それらの原料を作るためにも、やはりエネルギーが必要なのだ。

日本は、石油の消費量は減っているらしい。頑張ったからではない、、、単に、高齢化による人口減少の影響のようだ。 

 

と、まだまだ、覚書たりないところもあるのだけど、長くなってしまったのでこのあたりで。。。。

 

本書は、今後も予期せぬ展開は色々あるだろうとしつつ、

「気候変動が新しい地図の決定的な特徴になったことにより、エネルギーと国家の関係に新しい時代が開かれようとしている」

と、結んでいる。

 

エネルギー問題。古くて新しい。

人間が生きていく限り、ずっと続く問題だろう。

 

読み応えのある、一冊だった。

ちなみに、ダニエル・ヤーギンさんは、どんな人なのだろう?と思って、YouTubeで講演をみてみたら、結構なおじいちゃんだった。

そりゃ、知識の宝庫のような方なんだろう。

動画もいいけど、やっぱり活字の本もいい。

 

 

『新しい世界の資源地図 エネルギー・気候変動・国家の衝突』by ダニエル・ヤーギン (その1)

新しい世界の資源地図
エネルギー・気候変動・国家の衝突
ダニエル・ヤーギン 著
東洋経済新報社
2022年2月10日第1刷発行

 

今、話題の図書。新聞広告にもよく出ている。
ウォール・ストリート・ジャーナル、ベストセラー。
定価3200円、税抜。
これは図書館を待ってられないと思って、買って読んでみた。
すごい内容量。

 

これが3200円は安いと思う。最後には索引もついている。参考文献を除いても、536ページ。4 cm ぐらいの分厚さ。私は、普段出かける時、単行本でもあまり気にせず持ち歩くのだが、さすがにこれは重いので全部家で読んだ。トータル10時間ぐらいかかったかもしれない。とても速読できるような内容ではなく、かなりじっくりゆっくり。読書メモにしているマインドマップも、いつもなら1ページなのが、4ページに及んだ。とにかくすごいボリュームの本。 100枚入りの付箋も半分以上つかったかも?!

 

帯には、
エネルギーをめぐる凄まじい戦いの全貌
原油価格はなぜ激しく変動するのか?
米中関係はどうなるのか?
地政学リスクから第一任者が読み解く渾身の書
最新情報が満載!
日本人が知らない資源戦争の裏側
米国 VS ロシア・中国の冷戦時代、
エネルギー転換の未来を描く」

と、モリモリ。


しかも、赤い装丁。おまけに「新しい世界の資源地図」の文字は赤のラメラメ、キラキラ。なので、本屋さんでもかなり目立つ。

表紙の裏には、
地政学とエネルギー分野の劇的な変化によって、どのような新しい世界地図が形作られようとしているのか
エネルギー問題の世界的権威でピューリッツァー賞受賞者の著者が、エネルギー改革と気候変動との闘い、ダイナミックに変化し続ける地図を読み解く衝撃の書 」

 

感想。
とにかく、、、、すごいボリューム感。
すごい情報量。
読んでよかったけど、わかったのは、やっぱり
「エネルギーを制する者が世界を制する」ってことか?!

理解できたのは30%くらいかもしれない。


ちょっと、一言では言い切れないけれど、蒸気の時代の石炭から石油の発見、天然ガスの発見。再生可能エネルギーへの移行。それに伴う建設材料への需要高まり、、、。
経済はすべてが繋がっている、、、、。
その根幹は、原料でありエネルギー
それを持っているか持っていないか、それによって国のありようが変わっていく。そういうこと。
日本がエネルギーや原料の表舞台に立つことは極めて困難だろう。。。
できるとすれば、活用するテクノロジーしかない。

頭脳なら、天然資源が無くても生み出せるはずだ!!

なんて思ってしまう。
テクノロジーは貧困を救わないけれど、テクノロジーがないと世界で生きていけない。
それが一番感じたことかもしれない。

 

目次
第1部 米国の新しい地図
第2部 ロシアの地図
第3部 中国の地図
第4部 中東の地図
第5部 自動車の地図
第6部 気候の地図 

 

米国、ロシア、中国、中東は、それぞれの天然資源の強みの話を軸に、国の立場の変遷が説明されている。自動車と気候、というのは、それぞれエネルギー消費に関わってくるから。
自動車は言わずと知れた、脱ガソリンの電気自動車への動き。気候は、地球温暖化の問題から化石燃料からのシフトが必須となっているはなし。カーボンニュートラル(CN)、ネットゼロに向けた動き。

いずれも、1900年代(世界大戦争時代)から現在の流れの説明がメインだけれど、この100年のあいだにも、どれだけ国同士の関係が変化してきたか、という話。


国家間の色々。
経済力、軍事力、地理的条件。
野心、疑心、怖れ、、、。


そんなものが入り混じる国と国との関係が、これでもかというくらい詳しく、深く説明されている。
いやぁ、、、すごい人だ。

 

著者のダニエル・ヤーギンは、ニューヨークタイムズ紙によれば「米国で最も影響力のあるエネルギー問題の専門家」、フォーチューン紙では「エネルギーとその影響に関する研究の第一任者」と評されている。ピューリッツァー賞受賞者。ベストセラー著者。著者に『石油の世紀 支配者たちの興亡』、『探求 エネルギーの世紀』、『砕かれた平和 冷戦の起源』などがある。


たぶん、私はどれも読んだことがない。でも、本書は、とても興味をひかれた。地政学というものに興味を持つようになったからかもしれない。
まさに、地政学の本だった。
教科書みたい。
読み終わったら、付箋だらけだった。

 

覚書にさらっと残せる量ではないのだけれど、私なりの覚書。
まずは、アメリカから順におって、残しておく。

長くなりすぎるので、本書は2回にわけて覚書。

 

第1部 米国の新しい地図
アメリカが第二次世界大戦後に覇権国になったのは間違いないが、その後のもっと大きい変化は、シェールガスの発見だったということ。シェール革命で米国の貿易状況は一変した。シェールは欧州のエネルギーよりも安く生産することができたから。 アメリカの企業だけでなく欧州や中国の企業までもが、アメリカに投資するようになった。中国で作るよりもアメリカの方が安いものすらできたのだ。 これは驚き。


アメリカはシェールのおかげで2018年、世界ナンバーワン産油国になった。 そして輸入国から輸出国へ。
またトランプ大統領の出現は、世界にいくらか混乱を招くものとなった。 なぜならばトランプ大統領自身がアメリカからの LNG の輸出について各国に物言いをするようになったから。それまで、ロシアや中国に向かって「エネルギー貿易に政治を介入させるな」と言ってきた西側諸国だったのに、トランプがいきなり介入した
パリ協定からの離脱もそうだけれど、やっぱり、トランプ大統領は世界をかき混ぜて混乱させまくったように思う。
アメリカに住んでいるひとが、「悪夢の時代」と言っていたのがちょっとわかる気がする。

 

日本も、アメリカの石油・天然ガスの輸入に積極的。日本はそれらの供給を対米貿易黒字を減らす上で重要なものとして、また世界のエネルギー安全保障に役立つものとして捉えている。
ちなみに、日本は、石油は99%、天然ガスは98%輸入している。


2011年の福島第一原発の事故以来、原子力発電由来の電力が足りなくなった分は、 LNG が発電燃料としてその大半を埋めている。あとは、石炭も増えた。日本のCNへの道はほんとにまだまだ厳しい。

 

現在のウクライナ侵攻を理由としたロシアのエネルギー輸入禁止措置も、アメリカには痛くも痒くもない、、、というところだろう。
シェールの掘削技術ができていなかったら、今回の事情も異なっていたかもしれない。。

シェールが世界のエネルギー均衡を変えた。
それが、アメリカの経済力を変えた。

シェールを掘削できるようにした技術力はすごいと思うけど、やっぱり、その土地にシェールがあるという事実が強い。どこの土地なのか、地政学が大事になるわけだ。

 

正直、この第一部だけでも、この一冊を買った甲斐があるという感じ。でも、まだまだ序盤。。。

 

第2部は、ロシア。まさに、火中のロシア。ロシアの石油産業の歴史は19世紀に始まる。 しかし1905年の革命(ボルシェヴィキ)後、石油産業は停滞する。レーニンは燃料危機を解決するための策として石油産業を国有化した。 停滞の続いたロシアの石油産業が、グローバル市場に輸出国として復活したのは、第二次世界対戦後終結からしばらく経った1950年代末だった。

しかしその時にはグローバル市場は、すでに中東の石油で飽和状態になっていた。 
そこにソ連の石油が増えたため、石油の価格は下がった。そのせいで収入が減った石油輸出国は激怒してサウジアラビアベネズエラの主導のもと新しい組織を結成した。それが石油輸出国機構通称 OPEC
OPEC結成の歴史。1960年のことだ。

そして、その後、1970年代の石油危機。
ソ連は、石油価格の高騰で、経済をかろうじて持ち直す。

石油危機では、日本でも大騒ぎになった。トイレットペーパーがなくなるとかいって、主婦はトイレットペーパーのためにスーパーに行列した。

私も、なんとなく記憶にある。子供でも一人2個の購入量制限にはカウントされたので、母と一緒にスーパーに並んだ記憶がある。幼稚園くらいだったろうか。。。

日本人は、トイレットペーパーに並ぶの好きね、、、、なんて。

 

そして、ゴルバチョフの時代、エリツィンの時代。。。

プーチンの登場は、2000年。エリツィンから大統領の後継に指名される。

そして、めざしたのは、
社会秩序を再建すること。経済を安定させること。国家の権威を強化すること。ロシアを大国として復活させること」だった。

まさに、2022年の今も、その続きをウクライナでやっている、、、、ということだ。

 

ウクライナ」という名前は、「縁」または、「辺境の地」という意味。その話は、ジョージ・フリードマンの『新・100年予測』にも出てきた。

megureca.hatenablog.com

 

見渡す限り平原が広がり、自然の境界はほとんどない。そんなところが何故そんなに重要なのか、どういう歴史なのか?


ウクライナは、 ロシアもウクライナも自国の起源とみなす「キエフ大公国」があった。ロシアは、ウクライナとロシアは同じアイデンティティを持つと主張し、ウクライナは別々のアイデンティティを持つと主張してきた。今もそれが火種になっているわけだ。
1991年、ソ連の崩壊でウクライナは初めて主権国家になった。その時、実は「生まれながらにして核保有国」だった。1900個の核弾頭をロシアから受け継いでいたから。だが、1994年のブダペスト覚書でそれらはロシアに譲渡されている。かわりに、ロシア、イギリス、アメリカから、「ウクライナの既存の国境」を尊重するという約束を取り付けた。

プーチンはそれを無視している。
やっぱり、今、プーチンがやっていることは、侵略だ。

 

その後、2004年、ウクライナは、西側寄りのユシチェンコが大統領となり、ロシアを愕然とさせる。ウクライナは、ロシアの欧州への天然ガスパイプライン設置場所として重要だった。ウクライナにとっても、欧州への天然ガスに関税をかけられるメリットがあった。
そのウクライナが、パイプラインを管理しており、ロシア寄りでない政権になると、ロシアの思惑通りに欧州にガスを供給できなくなる怖れがある。ロシアにとって、ウクライナが自分たちの言うとおりに動かないというリスクを抱えた状態といえた。

そして、いまだにプーチンは、
ウクライナは国ですらない。ウクライナとは何か。領土の一部は、東欧にかかっているが大部分は我々からの贈り物だ。。。大ロシアと小ロシア、つまりウクライナがある。我々の関係については、誰でも口出しさせない。これはどこまでもロシア自身の問題だ。」と語っている、、、、。 


2014年クリミアの併合も含め、ウクライナも西側諸国もまったく納得していない。
そんな状況のまま、今のウクライナ侵攻、、、。

 

ウクライナというのはロシアのエネルギー政策にとって、ロシアを大国にするために需要な土地。なぜなら、ロシアからのエネルギーの主たる輸出先が欧州だから。

 

欧州のエネルギー政策は変化しながらも二本の柱があった。一つは、欧州全体で天然ガスの単一市場を形成すること。二つ目は気候変動対策として脱炭素と高効率化、再生可能エネルギーへの速やかな移行を目指すこと。 
現在、欧州内の各地はパイプラインでつながっている。
天然ガスはロシアからのものだけでなく、オランダのフローニンゲンガス田、英国の北海のガス田、ノルウェー北アフリカアルジェリアからも来ている。 

ウクライナ問題で話題になっていたノルド・ストリーム2だが、1本目のパイプライン、ノルド・ストリームは2011年に完成している。
2は、現在、中断されたままだ。 

欧州がロシアへの制裁のために遮断しているのは古いノルド・ストリームということだと思う。

そして、欧州との関係がぎくしゃくするなか、いま、ロシアは東方シフトをしている。石油の輸出先を欧州から中国にシフトしているということだ。しかし、同時に中国人がロシア側に大量流入してくるというリスクも抱えている。それでも、エネルギーのつながりは大きい。

 

ロシアの影響力は、いまなお、中央アジアにもおよぶ。
中央アジアカザフスタンキルギスタジキスタントルクメニスタンウズベキスタンアゼルバイジャンを含む範囲)はユーラシア大陸のちょうど真ん中に位置する。ハルフォード・マッキンダーが1904年「世界の地政学的な中軸地帯」すなわち「ハートランド」と指摘した地域。
これらの地域も、今では産油国となっている。21世紀になってから、パイプラインも出来ている。
今後、この地域が、ロシアにつくのか、中国につくのか、、、それが今後の注目ポイント。

 

ロシアの未来は、どうなるのか。本来なら、2024年でプーチン大統領の任期はきれるはずだった。それが、2020年、プーチンは新たな憲法改正2036年まで大統領の任期を延長することが可能になった。中国の習と同じことをしている。。。
これらは、ロシアは中国との関係を強化するということに他ならないという。エネルギーにおける戦略的パートナーシップ。加えて、対アメリカという反発も共通。
アメリカとの関係も、エネルギー問題。

やはり、エネルギーが今後を左右する。

 

ここまででもだいぶ長くなってしまったので、今日はここまで。。

続きは(その2)で。

 

『新しい世界の資源地図 エネルギー・気候変動・国家の衝突』

 

『シロクマのことだけは考えるな 人生が急に面白くなる心理術』 by  植木理恵

シロクマのことだけは考えるな
人生が急に面白くなる心理術
植木理恵
新潮文庫
平成23年7月1日発行

 

図書館の文庫本の棚をつらつら眺めて、目についた本。

植木理恵さんって、さんまさんのTVに出ていた人?と思って、ペラペラページをめくってみると、写真がそうだった。
ここ数年、あまりTVを見ていないので、今も出ているのかは知らないけれど。。。
薄くって、簡単に読めそうなので、借りて読んでみた。

 

感想。
なんじゃこりゃ??
軽い・・・。
まぁ、きっとそういう本なのね。
可愛らしいというのか、若者向けというか、、、。
ま、なるほどな、と思う箇所もいくつか。

悪くないよ。でも、軽かった。

まぁ、想定の範囲内、、、って感じかな。

気分転換にいいかも。


著者の植木理恵さんは1975年生まれ。心理学者臨床心理士東京大学大学院教育心理学科修了後、文部科学省特別研究員として心理学の実証的研究を行う。

そうか、1975年生まれだったんだ。

本の中には、昭和っぽい発言もあって、もうちょっと年上かとおもったけれど、意外と若い。(私からしてみれば)

タイトルの「シロクマのことだけは考えるな」というのは、心理学の実験の話。人は考えるなと言われるほど考えてしまうということ。 

求めれば求めるほどうまくいかない、頑張れば頑張るほどうまくいかない。 
そんながんじがらめなボヤキに、どうしたらうまくいくのかの答えは、認知心理学」と「記憶心理学」にある、という。

心理学者ウェグナーの言葉が引用されている。
「人は『考える』ことなしに、『考えまい』とすることができない」

まさに。

 

忘れたいのに忘れられない人がいる。失恋で落ち込んでいる、、、そんな若者には助けになる一冊かも。

 

目次
第1章 元気になる心理術
第2章 頭が良くなる心理術
第3章 人をコントロールする心理術
第4章 人を虜にする心理術


忘れたいのに忘れられない、、への対処法。
忘れようとして頑張ること、それが結果的に脳には覚えておけという伝令になっている。じゃあどうするか。脳のメーターが振り切れるまで考え抜くこと。どんなに考え抜いても人は半年経つとその対処への興味が薄れていく。「忘却曲線」があるから。
つまり人間の脳は飽きるようにできている。一刻も早く忘れたいことがあるならば、とことんその事に向き合って悲劇のヒロインになってみる

緊張でパニックになる様な時の対処法も書かれている。
パニック発作への対処法。
パニックになった時にはそのパニックを抑えようとするのではなく、自分が今どういう状態になっているのか冷静に見つめればいいのだという。
パニックを抑えようとする行動は、心理学では『回避的コントロール』と呼ばれる。
平常心!平常心!と思って平常心になろうとすると、かえって緊張してしまう。

それよりは、冷静に、「あ、自分は今緊張している。心臓がバクバクしている。」と、「一人実況中継」するとよいのだと。

なるほど、ちょっと、分かるかも。
こんど、緊張することがあったらやってみよう。
と、緊張することじたい、めったにないけど、、、、。

忘れたいこと、パニック、ともに、抵抗するのではなく、とことんそれと向き合うというのが対処法のようだ。

これは、心理学でいうと「認知」を変えるということ。
「出来事」をかえようとするのではなく、「考え方」を変えることで落ち着きを取り戻す。

ま、頭でわかるのと、体でできるのは違うから、、、、経験を積むんだろうな、と思う。

若者の皆さん、大丈夫、だれでも年をとると図太くなるから。失恋なんかじゃ死なないって分かるようになるから。

ちなみに、冷静に観察するというのは、他者についても有効だそうだ。
ケンカになったとき、冷静に相手を観察すると、双方感情的になって爆発!とならなくなる、と。
ま、それができるくらいなら、ケンカしないやね。

 

第2章 頭が良くなる心理術 では、集団で考えると手抜きの結論になりがち、という面白い話が出てくる。
合コンの反省会も、皆でやると誰かの意見に引っ張られてしまうから、一人でやれ、と。三人寄れば文殊の知恵なんていうのは、なかなかないのだと。
誰かがいると、誰かに頼ってしまうのが人間。自分の答えは自分で考えたほうがいい、ということかな。


会議も、会議になってから考えるのではなく、
1 あらかじめそれぞれが考えた意見を持ち寄って会議すべし!
2 その会議は進行役に仕切らせるべし!
と。
だれかが仕切ってくれると思っていると、、、、失敗する。
あ、それ、あるある。。。

友人と旅行に行くときなども、重要な役割はちゃんと分担して決めておこう。


「第3章 人をコントロールする心理術」というと、ちょっといやらしい響きがあるけれど、簡単に言うと、「アメとムチ」というけれど、「アメ」だけでいい、という話。でも、そのアメも、いつも与えるのではなく、「時々アメ抜き」がいいのだと。
なんだか、ツンデレってやつか?

毎回誘いに応じてくれる人より、たまには断る人の方が圧倒的に魅力的なのです
だそうだ。

そして、心理学的に実証された「スティンザー効果」を使うべし、と。「スティンザー効果」とは、
向かい合った人同士は相手の発言に反論しやすい。
隣に座って人同士は同調しやすい。
ということ、
恋人同士なら、隣同士に座ったほうがケンカしないかも、ね。

そして、魔法のポジションは、90度だそうだ。
お誕生日席。このポジションのメリットは、相手の目を見ることもできるし、外すこともできること。視線の自由度が高いと、人間の快適度アップするそうだ。
ちょっと、分かる気がする。

レストランとかで正方形のテーブルに、2人で座るとき、相手がだれであれ、正面同士に座るより、90度のポジションで座った方が、なんとなく親密感もあり、話しやすくもなる
なるほど、視線の持っていき場所の問題なんだね、なるほど。


「第4章 人を虜にする心理術」では、人をほめるテクニックがでてくる。人が嬉しくなる褒め方の手掛かりは、ジョハリの窓にあるという。
ジョハリの窓」は、心理学でよく出てくる言葉。
ジョセフ・ルフトとハリー・インカムという2人の心理学者が提唱した説だから、ジョセフとハリーで「ジョハリ」と呼ばれている。
二人は「人間は一つの自己を生きているのではなく、四つの自己を同時に持って生きている」と考えた。

それが、4つの窓。4象限。
① 既に開いた窓  (本人も他人も知っている自己)
② 隠した窓  (本人だけが知っている自己)
③ 開くかもしれない窓  (他人だけが知っている窓)
④ 閉じた窓   (誰も知らない窓)

人が褒めてもらいたいのは、①の窓ではなく、③の窓。
自分では思いもよらなかったところを指摘されると、「え?そうなの?私ってそんなところがあるの?」という意外性を感じ、褒めた人の印象が強烈に記憶に残るということらしい。

なるほどね。


全体に、恋愛に関する話が多かったところが、私には「軽い」と感じたところかもしれない。でも、恋愛真っ最中の若者には、すごい啓発本かもしれない。 

 

ま、読書は楽しい。

 

『シロクマのことだけは考えるな 人生が急に面白くなる心理術』

 

鼎談の面白さ と スイッチャー

『生き心地の良い町』を読んでいて、先日、『脳・戦争・ナショナリズム』を読んでいたときの違和感だったものがわかった気がする。

megureca.hatenablog.com

 

megureca.hatenablog.com

 

スイッチャーが不在な感じだ。話の中で異論を唱えたり、悪口にすすみそうなときにさっと話題を変えたり、そういうことをする役割の人。スイッチャー

 

『脳・戦争・ナショナリズム』を読んでいて、よってたかって人をバカ呼ばわりするのが気になったのは間違いないのだけれど、それだけではない。

なにか、信子さんまでそれに付き合って「そうだよね」と言っている感じ。3人あつまって誰かの悪口を言っているのを聞いているような、そんな違和感。

みんなが同じ方向を見すぎている感じで、異なる意見を交換し合っているよりは、同調の雰囲気に違和感を感じたんだ。

と、ふと気が付いた。

 

鼎談なのだけど、鼎談の中で新しい見解が3人の中で生まれるというより、それぞれが自分の知識や思考を表現していて、全員異議なし!みたいな感じ。

 

鼎談とか、対談は、それぞれの異なる意見が交わされて、その中で新たな解釈が生まれたり、誰かの疑問に誰かが答えることで、読者にも新しい解釈への気づきがあるとか、そういうものが面白いのではないだろうか。

あくまでも、私にとってということだけれど。

 

『脳・戦争・ナショナリズム』の3人は、それぞれの知識は面白いし、ふぅぅん、なるほど、ということもたくさんあったのだけれど、なんとなく感じた物足りなさ感。

 

もともと、10時間の鼎談を新書にしたようなので、きっと、原稿にしたときにこういう雰囲気になっちゃったんだろうな、、、という気もしなくもない。

対談や鼎談って、編集者の腕の見せ所なのかもしれないな、って思った。

インタビュー記事や番組だって、編集したときに本人がホントに伝えたかったことがカットされちゃったりすることもある。

編集って、すごい仕事なんだなぁ、、、と改めて思った。

 

最近読んだ本の中で、鼎談の面白さが満開と思ったのは、『AIと日本企業 日本人はロボットに勝てるか』と『日本人は思想したか』。megureca.hatenablog.com

megureca.hatenablog.com

 

どちらも、進行役が明確。

だから、編集も明確になるのかな?

そういう本の方が、読んでいて、私にはわかりやすいのかもしれない。

 

鼎談にもいろいろある。

本にもいろいろある。

 

たくさん読んでいると、読み始めてしばらくすると、これは自分の好きな本なのかそうではないのか、感じるようになってくる。

 

もっと、たくさんの本に出合いたい。

と、つくづく思った。

読書ほど安上がりな娯楽はない。

 

読書は楽しい。

本にもいろいろある。

人生もいろいろある。

 

いろいろあって、それでいい。

ってことかな。

禅の言葉 『行亦禅、坐亦禅、語黙動静、体安然』

行亦禅、坐亦禅、語黙動静、体安然
ぎょうもまたぜん、ざもまたぜん、ごもくどうじょう、たいあんねん

永嘉大師『証道歌』

 

今朝教えていただいた、禅の言葉。

 

中国の禅は達磨大師の教え。
その7代目である永嘉(ようか)大師、唐の時代の僧が作った詩集といわれる『証道歌』(しょうどうか)からの一節。


坐禅の時だけでなく、行住坐臥(ぎょうじゅうざが :「行」は歩くこと。「住」はとどまること。「坐」は座ること。「臥」は寝ること)、一日の行動の全ての時間が、禅のこころになれば、体がゆったりと定まる

体がゆったり定まることを、体安然(たいあんねん)と。

 

坐っているときだけ坐禅をしているわけではなく、その延長で、一日が決まる

 

語黙動静(ごもくどうじょう)というのは、言葉を黙する、言葉を発しない、そして動きを行わない、まさに、坐禅のこと。じっとしていること。じっとしているけれど裏で心は動いている。

そして、心も体も、安定する、っていうことだろうか。

 

明の時代の哲学者・呂坤吾(ろしんご)が書いた『呻吟語』(しんぎんご)からもう一つ。

深沈(しんちん)厚重(こうじゅう)なるは、これ第一等の資質。
磊落(らいらく)豪雄(ごうゆう)なるは、これ第二等の資質。
聡明(そうめい)才弁(さいべん)なるは、これ第三等の資質

 

頭が切れて弁がたつ(聡明才弁)のは、一番の資質ではない。
どっしりと落ち着いて深みがある(深沈厚重)が、一番の資質である、ということ。深沈厚重は、暗いということではなく、明るくどっしりとしている状態。


明るく、深沈厚重をめざすのがよい、というお話。

やたら弁がたって、ぺちゃくちゃ話すより、どっしり落ち着いている方がよい。

 

たしかに、自分のことや自分の知識をペラペラしゃべりまくる人より、静かに人の話を聴いて、必要なことを話してくれる人の方が賢人にみえるし、実際、そうな気がする。

そういうのも、年をとるとだんだんわかるようになる気がする。

だんだん、そうなればそれでいい気がする。

黙して成長できるのは、大人になってからかなぁ。。。

 

 

今日紹介いただいた永嘉(ようか)大師『証道歌』は、在家禅のお教みたいなもので、長いそうだ。その一節が今日のお話。

”君見ずや絶学無為(ぜつがくむい)の閑道人(かんどうにん)、妄想を除かず真を求めず、無明(むみょう)の実性(じっしょう)即仏性(そくぶっしょう)幻化(げんげ)の空身(くうしん)即法身(そくぶっしん)。。。行亦禅坐亦禅、語黙動静、体安然・・・。” 

 

語黙動静、一日をそうして過ごすのは私にはまだまだ難しいけれど、坐禅をしているときくらい、じっと、そっと、心をしずめてみよう。

 

心に迷いが生じたときは、語黙動静。

あわてず、さわがず、じっとしてみよう。

 

とはいえ、連休だし。

エネルギッシュに動けるときは、エネルギッシュに動こう!!

 

重要なのは、自分で今日するべきことを選ぶことだ。

あれもこれも、やりたいこと山積みだけど、あわてず、さわがず、

一番やりたいことからやっちゃおう。

 

 

『生き心地の良い町』 by 岡檀

生き心地の良い町  この自殺率の低さには理由(わけ)がある

岡檀(おか まゆみ)

講談社

2013年7月22日第1刷発行

 

山口周さんが Twitter で面白い、と言っていたのがふと目に入った。図書館で借りてみた。

 

感想。

うん、面白かった。

自殺の原因を調べる研究ではなく、自殺者が少ない理由を調べる研究。題材からして難しそうだけれど、岡さんは、自殺希少地域の一つである徳島県海部町海陽町(旧:海部町)にいって、地域の人からのヒヤリング、過去のデータ調査などに基づいて、その原因を探っている。

なるほど。と、面白かった。

そして、自殺予防に重要なのは「絆」とか「人のつながり」、なんていう簡単なものではない、もっと根本的なモノが見えてくる。

それは、強すぎない繋がりみたいなものであり、一人一人が「心地よい」と思える程度の幸せ、みたいなもの。

自分で、自分のことを「こんなもん」と思って認める強さ、みたいな感じ?

うまくいえないけれど、、、。

なるほどな、と思って読んだ。

たしかに、海部町の人たちのように生きていると、自殺は少ないかもな、と思った。



著者の岡檀さんは、和歌山県立医科大学保健看護部講師。慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科研究員。「日本の自殺希少地域における自殺予防因子の研究」で博士号を取得。

ということで、自殺する人が少ない徳島県海部郡海陽町に着目してその理由を探った論文に基づく214ページの単行本。

 

わりと、サラーーっと読める。

 

最後に、岡さんは、自殺をする人を責めるつもりはない。きっとゼロにすることもできない。それでも、できるだけ少なく出来たらいいと思っている、というようなことを書いている。

うん、共感。

 

目次
第1章 事のはじまり  海部町にたどり着くまで
第2章 町で見つけた五つの自殺予防因子 現地調査と分析を重ねて
第3章 生き心地良さを求めたらこんな町になった 無理なく長続きさせる秘訣とは
第4章 虫の目から鳥の目へ 全国を俯瞰し、海部町に戻る
第5章 明日から何ができるか 対策に活かすために

 

最初に彼女が着目したのは、自殺希少地域の一つであるこの海部町に自殺が少ない原因は、一般的に自殺危険因子と言われている貧困や健康の問題などが少ないのではないかということ。 でも調べてみるとそうではなかった。そして次に自殺予防因子が何か他と違うのではないかということに着目して、現地に調査に赴く。

 

そして、彼女が見出した海部町が他の近隣町と異なっている考え方。おおきく以下の5つ。

 

1 いろんな人がいて良い、いろんな人がいた方がいい。という考え方。

  海部町は、特殊学級設置への反対意見が多いという。色々な人がいるのがあたりまえだと。

 

2 人物本位主義

  肩書きや学歴のようなものは気にしない。

 

3 どうせ自分なんて、と考えない

 主体的に社会と関わる姿勢。自己効力感。

 

4 「病」は市に出せ

 うつ病であっても隠すようなことではない。近所にうつっぽい人がいればすぐに病院に行けと周囲が声をかける

 

5 ゆるやかにつながる

 隣の人に関心を持つ。監視をするのではない。



これら五つの特徴については、海部町の人たちに話しても、そうかもしれないと納得していただけた。

 

次に彼女が取り組んだのは、このような町の特徴がなぜ長く続いているのかということ。 

 

その特徴の一つには、一人一人が自分の考えを持ち、それを表明することが当たり前の文化になっているということ。同じであることを強要されないし、同調圧力のようなものもないのだろう。

 

例えば海部町は、赤い羽根の募金の募金率が凄く低いそうだ。何故なのか聞くと、「何に使われるか分からない赤い羽根の募金にお金を出そうと思わない」とはっきり意見を述べる。一方で神社の屋根の修理やら自分が出したいと思ったものにはお金をかける。みんなが募金しているから募金するのではなく、自分が必要と思うところにお金をかける。そして周りもそうする人のことを特になんとも思わないのだ。いろんな人がいてそれでいいという考えが文化として根付いている。 

 

その理由として、もともとの町の成り立ちとして血縁関係が浅い人たちが、材木供給のために集まってきた、という歴史があり、状況が変われば生活が変わる、というのが当たり前で、イデオロギーも人生も、「状況可変」があたりまえになっているから。だから、一つのルールのようなものに執着する必要もなく、変わっていくことを当たり前としてとらえる文化が根づいたのではないかと。

変わるのが当たり前で、一人一人が違うのも当たり前

 

変わっていくことが当たり前の文化では、監視は必要ない。そのかわり、関心というものが重きを持たれる。それは、お互いに関心を持ち合って、いざというときには助け合った方が長い目で見て得だ、という損得勘定もある、と。損得勘定は、あってあたりまえだ、と。

 

そこが、ゆるいつながり、が持続する要因になっているのではないかと。

 

次に彼女は、海部町の調査の中で比較対象とした自殺多発地域影響との違いを見ているうちに地理的な違いが気になるようになり、地理の観点からも調査を進める。

その結果見えてきた面白いことの一つは、住んでいる地域の傾斜度が高い、つまり山にあるコミュニティでは自殺率が高くなる傾向があるということだった。 高い平地ではなく、街そのものが傾斜の中にあるという場所。

 

彼女は、これは傾斜が直接的理由なのではなく、傾斜があることで病院や町内会など、どこに行くにもそれなりのハードルがあり、簡単に人が集まるという機会が平坦な町よりも少ないからではないかという考察に至っている。 

 

移動が簡単でないと、高齢者は出歩くのを控えて家にこもってしまう。あるいは、高齢者でなくても、だれかに車をお願いしないと簡単に出歩けないようでは、「迷惑をかける」とおもって、出歩かなくなってしまう。

海部町は、町のいたるところで人々がおしゃべりをしあっている姿があった。平坦な町は、だれでも外に出歩き、かつ、おしゃべりできるベンチのようなものが町のいたるところにあった。

 

傾斜地と平坦地は、人と出会って話す機会の量に違いがでてくるのだろう。そして、それが、つながりの頻度に影響を及ぼす、という考察。

たしかに。

傾斜度の高い街は、自殺率が高くなる。

たしかに、調査した数字を見るとそうなっている。

面白い。

 

とはいっても、彼女は、だったらみんな平地に住めばいい、と言っているわけではない。

そんな、簡単なことではない、と分かったうえで、間接要因を考察していて面白い。



海部町の人が、ゆるやかなつながりで繋がり合い、人に何かを強制したりしない理由を

町の人にきいてみると、

そんなことしたら、野暮やろ」と。

 

「野暮」なことはしない。

誰かに必要以上に干渉したり、あるいは無視したり、

そんな野暮なことはしない。

 

「野暮」なことをしないのが、真に賢いということなのかもしれない。 

 

ある集団が排他的にならないために必要な、「スイッチャー」という言葉が出てきた。
スイッチャーとは、集団が人の悪口などで全員が同意しているときに、さっと話題を変えたり、反対意見を述べられる人のこと。
あるいは、政治の場面などでも、全場一致で他の意見が排除されそうなときに、大事な観点をさっと述べられる人、っていう感じだろうか。

海部町の特徴ででてきた、「自己効力感を持つ」といのは、必要に応じてスイッチャーになれる勇気を持つ、ということなのかもな、と思った。

仲間内で、全員が「そうだ、そうだ」と言っているときに、自分は違うと感じたり、違和感を感じたら、きちんと自分の意見を言えるということ。

肯定感とも違う。
効力感。
うん、ちょっと、分かるような気がする。

肯定ではないから、自分の意見が否定されても、落ち込まない。
そうか、自分とは違う意見もいるのか、と思えばいいだけ。

まさに、いろんな人がいていい、いろんな人がいたほうがいい、という考え方。 

 

なかなか、新鮮味があって面白い本だった。

私も、自殺はなくしたいと思っている。

彼女の言う、自殺をした人を責めるつもりはない、というのも同感。

でも、悲しいから。

やっぱり、自殺はしてほしくない。

数十年前、何も語らずに逝ってしまった友人がいる。

何もできなかった自分を悔やんだ。

自殺までいかなくても、落ち込んだり、うつになったとき、

話せる場所を提供できたらいいな、と思っている。

どうしたらそうできるのかわからないけれど、、、、

少なくとも、ゆるいつながりを持ち続けることで、一人でも自殺を思いとどまってほしい、と思う。

 

生き心地の良い町、響きがいい。

心地よく生きるって、いいな。

いいと思う。

自分の空間を心地よくしよう。

自分の環境を心地よくしよう。

 

やっぱり、

自分の人生は、自分で考えて、自分で決める。

 

それでいいことにしよう。

 

『生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由がある』